日本消費者連盟
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震災瓦礫の焼却は危険:広域処理は見直しを!! ― 島田市で試験焼却後にセシウム濃度が上がった

震災瓦礫を被災地以外の自治体で焼却処理させる政策は、これまで環境省が進めてきた有害物質の『排出抑制』『拡散防止』の原理・原則を反故にし、環境省の存立基盤を自ら破綻させています。

2011年11月、東京都がいち早く瓦礫の受け入れを始めると、静岡県内でも島田市(人口10万人・市民の反対を押し切って溶融炉を設置した挙句ゴミが足りない状態)が受け入れの意向を表明し、地域は大騒ぎになりました。

松葉の測定から見えてきたこと

市民の激しい反対により「試験焼却を行ない、安全を確認して実施する」ことになったため、静岡放射能汚染測定室は試験焼却(12年2月16、17日)の前後、島田市内6定点(+対照地市外1か所)で松葉を採取し、焼却による環境への影響を見るための放射能測定調査を行ないました。試験焼却用瓦礫も島田市議の協力で入手し、測定室で定量の結果、通常のゴミよりもセシウムの汚染値が低かったため、松葉の測定値も上がることはないと予測していましたが、焼却後の測定値は有意差を持って高く、その結果に驚きました[1]

採取した松葉に2011年の福島原発事故直後の葉が混入した可能性を疑い、再度、松葉採取を行なって測定をしましたが、結果は同じでした[2]。また、焼却後の残り灰も島田市より借り受けて測定。通常の残り灰よりも高い値でした。この結果を島田市に伝えましたが、「480ベクレル/㎏までは安全ですから」とくり返すばかりで、『国の基準値以下の値だから安全』が指標であって、飛散の有無は問題にしていません。

40%の放射性物質がバグフィルターを通過

そもそも広域処理をする瓦礫は〝木材チップで放射能の残留の少ない物〞と限定されています。島田市に届いた瓦礫を見た私たちは、誰もが唖然としました。プランターに入れておいても土に還る小さな木片だったからです。

私たちの測定結果だけでは瓦礫受け入れを見直すきっかけになりませんでしたが、バグフィルターで放射性物質は確保できないと考えた人たちが、島田市が公開した試験焼却時の炉内各所のセシウム実測値を元に、溶融炉内で放射性物質がどのように移動するか、物質収支の考え方を使って計算をして、約40%がバグフィルターを通り抜け、空気中に拡散している事を突き止めました[3]。メーカーの仕様書でバグフィルターの性能を調べていくと、構造上、放射性物質を捕獲するようには造られていないこともわかります。

このデータを島田市に届けても『放射能汚染の無い瓦礫しか来ないから』という市の見解は変わりませんでした。

広域処理が奪う被災地のお金と雇用

最初から広域処理ありきで動いている独善的なやり方に腹が立ち、本当に被災地で瓦礫の処理はできないのだろうか?と宮城県と岩手県全ての行政域の廃棄物対策課に電話をかけて、焼却炉数と各日動処理量を調査しました。その結果、2012年4月5日現在、2件で33期(宮城県27期、岩手県6期)の焼却炉が稼働、合計処理量5066t/美。被災地の総瓦礫2045万トン(11年11月の時点)の内、焼却処理が必要な瓦礫は約20%(環境省HPに記載)の409万トン。409万トン÷5066t=802日≒2・2年で処理が官僚します。さらに宮城県だけでも現在、17基の焼却炉が建設予定だそうですから、もっと早く処理が終了します[4]。被災地に新設された焼却場の稼働は2025年までの期間限定だといいます。被災地の焼却場では雇用も生み出しています。

私たちはこの間の全調査とデータをまとめて瓦礫の広域処理を喝破するリーフレット[5]を作成し、瓦礫の広域処理を見直す要望書の賛同を募っています。

(静岡放射能汚染測定室・日本消費者連盟運営委員 馬場利子)

日本消費者連盟も、環境大臣宛に、がれきの広域処理に関する次のような申し入れをしました。


2012年6月1日
2012年日消連第10号

環境大臣 細野 豪志 様

特定非営利活動法人 日本消費者連盟
共同代表 天笠啓祐
古賀真子
真下俊樹
山浦康明

震災廃棄物広域処理に反対する要望書

冠省

震災廃棄物である震災瓦礫の広域処理は、日本全国を混乱に巻き込み、被災地の自立を阻む誤った政策です。有害物質は、排出制限・拡散防止対策が必要ですが、今回の震災瓦礫の処理は、広域処理をする必要性に疑問があるばかりでなく、拡散防止の原則に反することから、早急に見直すことを求めます。

環境省の説明では、「被災地の復旧・復興の障害となる大量の瓦礫を迅速に処理するために、全国の自治体にある既存の施設が必要であり、現在被災地にある仮置き場をさらに確保することは地形的にむずかしく、がれきが山積みされ、火災の危険性の高まりや夏場を迎え、悪臭、ハエの発生も予測されるため、他の自治体での受け入れが必要である」とされています。「被災地では現在、既存の施設に加えて、仮設の焼却炉を設置するなどして処理に取り組んでいますが、処理能力は依然として不足している自治体がほとんどであり、最終処分場についても容量が不足しています。新たな処理施設や最終処分場の建設は、土地の選定、周辺環境への影響調査、設計、建設など、数年単位の年月がかかるとし、岩手県・宮城県がそれぞれ策定した災害廃棄物処理の実行計画等に基づき、県内での再利用、処理をできる限り行った上で、なお県内での処理が困難と整理されたものについて、広域処理が必要」としています。

しかしながら、環境省発表値によれば、2012 年4 月における、宮城県・岩手県両県での稼働している焼却炉は33基。処理能力は5066t/日。焼却処理をする瓦礫の総量は全体量の約20%ということです。必要な焼却処理瓦礫量 409 万tを現地で処理すると、約802 日(2.2 年)を要します。宮城県の場合、現在、7 か所17 基の焼却処理場が建設中ですので、2 年も経たずに現地で処理が出来る上大きな雇用も生み出します。被災地での処理能力があるにも関わらず広域焼却処理政策を進めるのは、広域処理が必要という前提に誤りがあると考えられます。

次に、がれきと一口にいいますが、15億円もの税金を投じた広報により、震災地以外での受け入れは国民のきずなや思いやりに反するとの他県での受け入れがすすめられていますが、これは放射性物質の拡散であり、日本全国に汚染を広げる愚策です。
ダイオキシン対策防止法により、安全な生活ゴミの焼却処理を行えるということでバグフィルターを備えた焼却場が各地に完備しました。しかしながら、現行の焼却炉では放射性物質を炉内にとどめる事はできません。私たちの会員のグループが松葉による環境調査を島田市の試験焼却で行った結果、放射能の飛散を示す数値が出ました。「バグフィルターによって放射性物質を99.9%、炉内に確保し、環境へは排出しない」という環境省の広報は誤りです。

これに対して、環境省のHPのQ&Aでは、静岡県島田市が2月に行った岩手県山田町の災害廃棄物(木くず)の試験焼却の結果について、「10万ベクレルが行方不明」「バグフィルターによる放射性セシウム除去率50~60%」といった指摘については、「本当ではありません。」と言下に否定し、私たちの指摘については、「様々な仮定を置いて計算された結果ですが、その仮定には適切ではないものが含まれています。」としています。そうしながらも、「島田市の調査結果からバグフィルターによる正確な除去率を求めることはできません」とし、「煙突から排出される排ガスの放射性セシウム濃度は検出限界未満※1となっているので、安全性の目安となる値(排ガス:セシウム134は20ベクレル/m3、セシウム137は30ベクレル/m3、焼却灰は8,000ベクレル/kg)を大きく下回っており、安全性の面で全く問題ありません。環境省が行った別の調査結果によれば、除去率が99.9%以上と計算されていますとしています。」とし自らの安全基準に依った安全性を強調するのみで納得できるものではありません。
そもそも、安全基準については、「埋立処分される灰は、放射性セシウム濃度が8,000ベクレル/kg以下のものです。8,000ベクレル/kgは、廃棄物を安全に処分するために法律で定められた基準値で、これ以下であれば一般廃棄物と同様の埋立処分ができます。この値はIAEA(国際原子力機関:International Atomic Energy Agency)も認めているもので、埋立処分場で作業する人であっても被ばく線量が1ミリシーベルト/年以下になります(年間1000時間労働を想定)。」としていますが、新たに拡散するべきでないところに、処分における安全性基準を用いることは誤りです。

環境省の説明によれば、「広域処理するがれきは、放射性セシウムが不検出か、検出されたとしても安全のための基準を満たしたものだけであり、「放射性物質により汚染された廃棄物」とは異なるとされています。そして、がれきを広域処理に送り出す際の、安全性のチェック体制については搬出側の自治体で二重のチェックをするとか、焼却時に放射性セシウムは、高性能の排ガス処理装置でほぼ100%除去できる」として安全性が強調されています。

安全性の基準はセシウムでつくられていますが、ストロンチウムやプルトニウムなど他の放射性物質は調べなくていいのかとの疑問には、「がれきの安全性を評価するにあたり、セシウム以外の放射性物質の影響は放射性セシウムにくらべて非常に小さいことから、放射性セシウム濃度を基準にしています。

福島第一原発周辺の放射性物質の拡散状況の測定結果、また、福島県内の焼却施設における排ガスや焼却灰の測定結果から、セシウム以外の放射性物質の影響は、放射性セシウムにくらべて非常に小さいことがわかっています。よって、事故由来の放射性物質に汚染された廃棄物の処理にあたっては、放射性セシウムの影響に着目して安全評価基準をつくっています。」とされていますが、今回の福島第一原発の事故で、米国にまでプルトニウムの汚染が広がったとの情報もある中で、なぜセシウムだけの対策で安全といえるのか疑問です。震災瓦礫に限らず、廃棄物にはアスベスト・PCB・カドミュウム・放射性物質など生物にリスクになる物質が含まれています。焼却処理をすれば、有害化学物質は濃縮し、高濃度の汚染残り灰となって、最終処分場周辺の環境を汚染する事例も既に報告されています。千葉県の最終処分場での水漏れ事故や滋賀県の遮蔽シート損傷検証報告書などを見ても、地域住民が汚染物質の受け入れに反対することは正当な理由があります。

環境に負荷をかけて広域に瓦礫を運び、焼却処理により汚染を日本中に拡散する政策を直ちにやめてください。

以上

(連絡先) 特定非営利活動法人日本消費者連盟(古賀)
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1‐9‐19  アーバンヒルズ早稲田207
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