日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
企業や国家の利益よりも人のいのちや健康を優先する世の中に変えたいと活動しています。

低所得高齢者の生存権を奪う介護保険|消費者レポート2月号特集

 高齢者が3人集まれば、話は年金 か介護保険、医者代への不安で締めくくられます。買い物で、銭湯で、 図書館で、本屋で、スーパーで、女性高齢者は、どんなところでも話し出します。少し前までは、もっぱら人の噂、食べものに健康、テレビの話でした。昨年秋ごろから急に年金減額への怒りが目立っています。後期高齢者の私が、埼玉県秩父市という小さな町に住んで、同世代の人た ちから聞かされた「福祉」についての怒りを拾うことにします

考えると眠れなくなる

 80歳1人暮らし。築 年の借家に 住む女性。糖尿病に腰痛、足痛。 「イタイ、イタイと暮らしています。 それでも何とかなったのは、少しず つ年金が上がっていたから。それがここにきて下がりっぱなし。医療保険と介護保険が上がって、それを天引きされると年金の手取りはついに1カ月9万円になってしまった。そこから部屋代4万円を払う。残り5 万円で医者代と食費、光熱水道料 ......。貯金も底をつきそう。息子が ボーナスで10万円を入れてくれてい るから首を吊らないできた。これか らどうなるか」。考えると眠れなく なるし、自殺したくなる。行くとこ¥ろもないからどんなに寒くても外に 出て歩き回るといいます。
 彼女は若いとき織屋さんに勤め、 織りの仕事をしてきた。だから自分の年金があるので、まだいいほうか もしれません。1人で町を歩き回れ るのだから、この年齢では幸せなほうかもしれません。それがなぜ、ここにきて「眠れない」「自殺したい」 と言わざるを得なくなったのか。彼女の話からわかることは、医療や介護保険の負担が高齢者の生活そのものを押しつぶしてしまっているという現実です。介護保険は強制加入で、 税金がかからない低所得者にも負担 を強いる制度になっています。介護 保険料を年金から引かれたら、介護してもらうどころか、明日の食も大変になってしまうのです。 「だからって生活保護を申請するか、とはならないんですよね。老いても、それまで働いてきた年金と社会保障制度で自分らしく生きていきたい」。

覆い隠される高齢者の貧困

 群馬県高崎市で「介護保険の減免 申請運動」を始めようと学習会が取り組まれています。「老人の生存権を保障させる会」(世話人・木村亨) には、 80代から 90代の高齢者が 30人余り集まっています。
「そもそも介護保険制度は、憲法 条の生存権に基づいてできたものでしょう。加齢に伴って生ずる心身の変化によって要介護状態になった時、高齢者の尊厳を保持しながら、 その人が持っている能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、さまざまなサービスを給付することを目的としているはずです」
「ところが現実は、介護保険法の目 的などどうでもいいとばかりに国は社会保障費を削り、制度に必要な金は当人からとればいいと制度改定を次々進めている。自分の足で歩きた いなんていうから医療費も介護費もかかる、年寄りはじっと家にいれば いいと言わんばかりです」
 この会に参加している88歳の男性 は、今の国の政策は年寄りを家や施設に閉じ込め、高齢者の貧困をどんどん見えなくさせているのではないか、と怒ります。学習すればするほどそれが見えてきた、というのです。 この会では、ゆくゆくは介護保険料をそれぞれの生活実態に応じて減免させる運動に取り組むつもりだとい います。

● 80代男性。要介護 の妻が特養入所中

月6万7千万円の負担増。年金収 入だけなので、できるだけ節約して いる。それでも赤字なので、わずかな貯金をおろして生活費に充ててい る。今はなんとか生活できているが、 自分も健康を害したらと不安。年金 でつましくやりくりして、やっと人並みの生活をしている者にとって、 厳しい改定で残念だ。

● 60代男性。要介護4の妻が特養入所中。要介護3の母も在宅で介護中

月8万5千万円の負担増。自分たち夫婦の老後の備えや子どもの雇用が不安定で低賃金のこともあり、また国の社会保障制度への不安もあっ て、預貯金をできるだけ使わないようにしている。私も外出や旅行は諦め、食費を削るため、スーパーの閉店間際の値引きや賞味期限間近のものを購入している。私も妻も共済年金を受給し、まだ恵まれているほうだと思うが、子どもの奨学金の返済が残っているし、妻と母の介護で どれくらいお金が必要かわからない。

● 60代女性。要支援2の夫を在宅で 介護中

月2万円の負担増。毎月の出費が 年金の半分になるので、ショートステイの利用を減らし、歯科受診も半分にした。介護時間が増えて疲れるが、自分の体をいたわりながら生活しようと思う。

● 60代女性。要介護2、要介護3、 要介護4の3人の認知症の親が特養やグループホームに入所中。

月5万4千万円の負担増。これま で、何とか年金と少しの収入でやっ ていけたのだが、2割負担になり、 貯蓄を取り崩さなければならなくな った。貯金はあとあと入院するよう になったときの費用に充てるつもり だったが、それもできなくなった。グループホームの費用の支払いがで きなくなったら、親2人を引き取る ことも考えている。自分たちの家族 も年金世帯。これからどうなるやら 不安。「お金のない奴は早く死ね」ということなのか!

● 60代女性。要介護2の夫の親を在宅で介護中

要介護2だが、特養に入所できないならショートステイをできるだけ利用していくしかない。ただ、蓄え が尽きたらどうしたらいいのか。これ以上家での介護は無理。私の体がもたない。

●70 歳男性。要介護3の妻を在宅で 介護中

妻が喜んで行っているデイサービ スが廃止でもなったら絶対に困る。 すべての事業所が廃止や縮小にならないよう考えてほしい。介護報酬の 引き下げは、事業者の経営に響いているようで、そのために人手不足になり、満足な介護サービスが受けられなくなってくるのではと心配して いる。