新たな自衛隊の海外派兵
2011年8月8日、来日中の国連の藩基文(パン・ギムン)事務総長は、菅直人首相に対し、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に関し、陸上自衛隊の施設部隊の派遣を要請、首相は「しっかり取り組みたい」と述べたと報道されています。
なし崩しの恒常化
北アフリカに位置する南スーダンは、11年7月9日にスーダン共和国(スーダン)から独立しました。この分離独立に関わって、国連は南スーダンへのPKO部隊の派遣を決めています。自衛隊の海外派兵はどんな形であろうと憲法違反ですが、とりわけ南スーダンへの派兵は、軍事行動に巻き込まれる懸念があります。
この動きは、東日本大震災とそれに引き続く原発震災後の混乱の中、紅海沿岸のジブチ共和国で自衛隊として初めての恒久基地が建設されたことと合わせて、災害派遣に隠れた油断できない動きです。
そこで、「許すな!憲法改悪市民連絡会」(日消連も参加)などでは11年7月28日、千葉大学教員の栗田禎子さんを講師に招いて、緊急集会「自衛隊は南スーダンに行くべきではない~PKO5原則を見直し、ジブチの基地建設など海外派兵に異議あり」を開きました。
いまだくすぶる火種
栗田さんによれば、南スーダンが分離独立する背景には、1989年以来のバシール政権下のイスラム原理主義による強権政治、低開発地域弾圧があるそうです。
スーダンでは、北部の民主勢力と低開発地域の運動(SPLM)の共闘が展開され、90年代には民主化や開発格差是正を求めてスーダン全体を新しくする動き「新しいスーダン」ヴィジョンもあったそうですが、02年に南北和平のプロセスに入るとともに南部分離の方向へ向かい、11年には南部独立を問う住民投票が行なわれました。
南北「二つのスーダン」間には、国境にまたがる産油地帯アビエイの帰属や石油権益の配分、ナイル川の水の分配などの問題が火種として残っているそうです。いまだ国境が定まっていないところもあり、両国の利権配分をめぐる対立が、内戦ならぬ戦争につながるおそれがあるといいます。また、独立した南スーダンの問題として、内戦で荒廃した農地の復旧など課題が山積みしており、SPLM(軍事組織)が脱皮した政府が独裁化、腐敗化していく可能性も否めないと栗田さんは見ています。
民主化やインフラ整備が先決
栗田さんは、「00年期、欧米や中国がスーダン問題に熱心になったのは、スーダンの民主化を目指すためではなく、その地域の資源に注目しているから。今後、『北部のイスラム主義国家』対『南部の親米国家』という対立が強まりかねない状況下、自衛隊を派兵すれば、軍事行動に巻き込まれる可能性が大きい」と話しました。
そして、「北部の民主化や南部のインフラの整備などへの支援が、まず何よりも大切だ」と、栗田さんは結ばれました。
(富山洋子)