日本消費者連盟
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平成の治安維持法「特定秘密保護法案」に反対する声明文

2013年10月24日、超党派議員の主催による「秘密保持法」を考える院内集会が開かれました。超党派の議員と市民の質問に対して、内閣官房情報室、外務省、防衛省、警察庁、総務省が法案について回答しました。しかし、特定秘密の要件があいまいであること、本法案の立法の経緯に疑問があること、秘密の範囲があいまいであること、知る権利の侵害の危険があること、秘密の範囲については行政権が判断するなど多くの疑問があります。日消連では集会を受けて、内閣総理大臣と官房長官あてに声明文を送付しました。

2013年10月24日、参議院会館大講堂で開かれた「秘密保護法を考える超党派の議員と市民による第2回消長交渉」(第4回勉強会)に参集した市民のアピール

2013年10月24日、参議院会館大講堂で開かれた「秘密保護法を考える超党派の議員と市民による第2回消長交渉」(第4回勉強会)に参集した市民のアピール


 2013年10月24日
2013日消連第26号

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
内閣官房長官  菅 義偉 様

特定非営利活動法人日本消費者連盟 共同代表 古賀 真子
共同代表 真下 俊樹
共同代表 山浦 康明

特定秘密保護法案に反対する声明文

安倍内閣は、2013年9月26日、特定秘密保護法案(以下「本件法案」という)の内容を明らかにし、2013年10月25日の閣議決定を経て、今臨時国会への提出及び成立を目指しているとされています。

政府は、「今の法律では、国の安全に関わる秘密の漏えいを防ぐ管理体制が不十分だ」として本件法案を「今国会の重要法案」としています。政府が法律を作ろうとしたきっかけは、2010年に起きた尖閣諸島沖漁船衝突映像のインターネット流出事件ですが、この事件は「国家秘密の流出」と言えるものではありません。

本件法案では、①「国の存立にとって重要な情報」を行政機関が「特別秘密」に指定し、②秘密を扱う人、その周辺の人々を政府が調査・管理する「適性評価制度」を導入し ③「特別秘密」を漏らした人、それを知ろうとした人を厳しく処罰する等が柱となっていますが、憲法違反の法案であり、憲法解釈にも真っ向から反するものです。

本来、特定秘密の取扱いは厳重に行うべきです。国民の民主政治過程への参加は、選挙権だけでなく、表現の自由で保障された「知る権利」によって成り立っています。国による恣意的な情報操作を許さないという原則が個人の尊厳を守る日本国憲法の根幹です。

本件法案は、防衛審議官の新設や内閣の国家安全保障機能強化と日本版NSCの設置、そして集団的自衛権を体現する国家安全保障基本法と深く関連しており、憲法の条文を変えないまま、実態として憲法を空洞化させる一連の政策のさきがけともいえます。

特定秘密の範囲が広範かつ不明確で、違法秘密や疑似秘密(政府当局者の自己保身のための秘密)の危険性もそのままであり、適性評価におけるプライバシー侵害の問題や、重罰化、共謀・独立教唆の処罰による取材活動の萎縮や知る権利の制約の問題も解消されていません。

2013年10月24日に参議院議員会館で開催された、「秘密保持法を考える超党派の議員と市民による第3回省庁交渉」でも、関係省庁の答弁では、特定秘密の内容の説明はなされず、秘密文書の公開についても「文書は開示できる部分とできない部分を精査する必要があるので現時点では公表しない」の一点張りでした。

本件法案の特定秘密の範囲は、広汎かつ不明確であることが明らかであり、国民の疑問に答えないまま閣議決定され、法案審議に入ることは許されません。

また、行政機関の長が特定秘密情報を提供することができる要件について、国会の議院等(以下「国会等」という。)に対しては、行政機関の長の幅広い裁量権が規定されているのに対して、外国の政府や国際機関に提供する場合については、国会等への提供の場合より緩やかなものになっています。そのうえ、国会等に特定秘密を提供した場合に、議員がその情報を議員活動でどのように利用できるかについても不明確なままであり、国会が国権の最高機関であることを全く無視するものです。全国民を代表する国会議員によって構成される国会が行政を監視するのではなく、逆に行政によって国会が支配されかねない構造となっており、個人の尊厳を守るための憲法の統治機構の在り方を根底から揺るがすものです。

その上、警察庁長官が、都道府県警察が保有する特定秘密の提供を求めることができるものとしていますが、警察組織の更なる中央集権化を推し進める役割を果たし、戦後の警察組織の民主化を大きく後退させることになります。警察庁でも何が秘密に当たるかわからないと答弁されており、恣意的な捜査による人権侵害が起きることも心配されます。

秘密指定や期限延長、廃案について適正に行われているかの第三者チェックについても「第三者チェックは個別具体的指定は専門的技術的判断が必要であり、チェック機関を設ける予定はないとしており、恣意的な運用がされる恐れがあります。

一方、法案の第20条に「報道の自由」に配慮する旨の規定が盛り込まれましたが、「報道の自由」は判例上確立しており、その文言を改めて規定する意味は特にないのであって、幅広い処罰規定を設け、過失犯まで処罰するという本件法案の重罰化がもたらす憲法の保障する自由権に対する深刻な萎縮効果こそ問題です。

また、本件法案には、内容面だけでなく、手続き上においても重大な問題があります。

本件法案の内容は、統治機構の在り方、国民主権及び国民の諸権利に重大な影響を与えるものであるにもかかわらず、政府は、この問題について国民に秘したまま7年以上にわたり水面下で検討しながら、ようやく法案提出の1か月前に突如法案の概要を示し、更にまたパブリックコメントの期間を僅か2週間しか設けないという国民不在の手続を強行しました。国民主権の否定につながるこのような手法は断じて許されません。

パブリックコメントには、約9万件の意見が寄せられ、しかも、約8割が法案概要に反対するものであったのですから、政府としては、パブリックコメントに寄せられた意見を分析し、法案の内容を再検討し、さらには法案の提出の断念をも検討すべきです。ところが、パブリックコメント終了後わずか12日目に本件法案を公表しました。

政府は、「国民の知る権利」を真っ向から否定し、安全保障に対する国民「義務」が民主主義よりも高い社会規範であるとするものですが、「公共の安全」、「秩序の維持」という曖昧なモノサシで秘密の範囲を政府が恣意的に広げ、外交と防衛の最も重要な情報ほど国民に知らせないとするものです。「安全保障をめぐる環境が変わった」と言いながら、東アジア諸国との関係改善を怠り、自ら生み出した緊張を利用して、憲法の三大原則と立憲主義を本気で破壊しようとするものと言わざるを得ません。

本件法案には反対であり、閣議決定や、法案審議を行わないよう強く要望します。

(以上)

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