日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
企業や国家の利益よりも人のいのちや健康を優先する世の中に変えたいと活動しています。

過酷な労働は国内にも|消費者レポート1月号特集

過酷な労働は国内にも

口癖は「それ何分で終わる?」

ジャーナリストの横田増生さんは、国内ユニクロの3店舗で1年以上働き、過酷な労働実態を明らかにしました。違法労働や人権侵害は、海外の生産現場だけでなく、日本国内にもありました。私たちは、遠くの国の人々の人権に思いを馳せるように、同じ生活圏の働く仲間たちの労働環境にも確かな目を向ける必要があるでしょう。

「ユニクロ」潜入ルポを書いた 横田増生さんに聞く

——なぜユニクロ店舗の潜入ルポを書こうと思ったのですか。

 私の著書「ユニクロ帝国の光と影」を出版した文藝春秋を名誉毀損でファーストリテイリングが訴え、14年末には文藝春秋が全面勝訴しました。その後雑誌インタビューで柳井正社長が、「悪口を言っている人は、うちの会社で働いて、どういう企業か体験してもらいたい」と話していました。ならば実際に働きながら取材しようと思ったのです。これは私への“招待状”かな、と。

——以前から過密労働やサービス残業が問題視されていましたが、実際どうでしたか。

 ブラック企業批判が出た数年前に比べて改善されていましたが、依然としてサービス残業はありましたし、超過密労働の実態はありました。ユニクロは他の店に比べ、商品量が多く整理整頓も徹底しているので作業量も膨大になりがちです。私が働いた3店すべてで店長など社員のサービス残業がありました。退勤記録に午後7時とあるのに、午後9時以降まで働いているのを目にしました。
 店長はその店の経営者として意識を持てと叩き込まれますから、売り上げだけでなく利益を上げることも仕事です。そのために、極限まで人件費を削れる店長が優秀とされます。繁忙期には労働者の健康を二の次にしたような長時間労働、閑散期には収入減につながる労働時間の削減。スタッフの都合を忖度する人ではなかなか昇進できないようです。
「それ何分で終わる?」はユニクロ社員やアルバイトの口癖でした。たとえば品出しに「15分で」と答えれば、社員から「いや7分で」。では「何とか10分で」と言えば「7分で」と押し切られます。レジは90秒、在庫確認は5分です。常に追い立てられて極限まで時間管理される。自分はまるでロボットのようだと感じました。
 柳井社長は、営業利益率10〜15%を出すのが良い会社で、10%以下は我慢ならないとしています。利益目標ありきで、人件費は少なければ少ないほどいいという発想そのものが問題ではないでしょうか。計算通りに進まない現場の作業は、店長のサービス残業となって現れることがあります。違法労働は管理者の意識で失くせるものではなく、合理的に回せるだけの十分な人件費をかけることで解決できるのです。

——似たようなことは他の企業にもあるという意見がありますが。

 他もやっているからやっていいとはなりません。日本一のファッション企業として利益を上げ、世界一もめざしているのですから、違法労働をなくし人権に配慮するのは当然でしょう。また批判にさらされると取材を受けない、必要な情報公開もしないという体質にも大いに疑問が残ります。社内では守秘義務が多くてスタッフは委縮している。世界のファッション企業が情報公開を強め、ラギー・フレームワーク(6ページ参照)に則ったしくみを整えつつある中で、このまま体質を変えなければ世界から取り残されると思います。