日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
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汚染土壌浄化への拙速なナタネ利用は危険

──遺伝子組み換えナタネ自生調査報告──

「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」の呼びかけで2005年から行なっている「遺伝子組み換えナタネ自生調査」。その調査結果を報告する集会が11年7月9日、大阪市内で開かれました。

今回は、ナタネが福島第一原子力発電所事故による放射能汚染土壌の浄化に役立つと注目されていることから、「菜の花プロジェクトネットワーク」代表の藤井絢子さんと、「チェルノブイリ救援・中部」理事の神野英樹さんを講師にお招きしました。

三つの運動がクロス

藤井さんは、琵琶湖の汚染問題をきっかけに廃食油を石けんにリサイクルする水環境再生運動が始まり、地球温暖化がクローズアップされる中でナタネ栽培による食料自給率向上と資源循環社会の構築を目指す取り組みに発展したことを紹介。いずれも住民参加型、地域主導の運動であることを強調しました。

チェルノブイリ原発事故で汚染地となったウクライナのナロジチで、ナタネによる汚染土壌浄化支援を行なっている神野さんは、放射性物質によって根、茎、鞘さやなどの吸収量が違っていることや、搾った油には放射能は移行しないことなどを紹介しました。

キャンペーン代表の天笠啓祐さんも加わったパネルディスカッションは、会場からの質問に答える形で進められました。

原発事故による土壌放射能汚染について、「ナロジチのナタネ栽培はチェルノブイリ事故から19年も経ってから始まったため、汚染物質が地中深くもぐり込んでいた。

福島の場合は、まだ地表数センチのところにあり、表土の除去から始めるべき」(神野さん)、「放射性物質を吸収すると注目されているナタネだが、汚染状況を把握したうえでないと、反対に汚染物質を撒き散らす可能性もある」(藤井さん)と、初動の重要性を指摘。最後に天笠さんが、「藤井さんの地域再生、神野さんの汚染浄化、私たちの組み換え反対という三つの運動がナタネを通してクロスした。社会を変えていくのは市民の力であることがあらためて示された」と締めくくりました。

検査体制の課題も

組み換えナタネ自生調査報告では、今回も組み換え汚染の拡大が明らかになりました。

港周辺や国道沿いなどに自生する946本を検査した結果、ラウンドアップ耐性14個体、バスタ耐性44個体、ラウンドアップとバスタの両方に耐性を持つ両耐性5個体と、合計63個体が組み換え品種でした(表)。モンサント社のラウンドアップとバイエルクロップサイエンス社のバスタの両方に耐性を持つ組み換え作物は本来存在しません。自生した両組み換え品種が交雑した可能性を示唆しています。また、検査キットで陰性ながら、より精密なPCR法による試験で組み換え遺伝子を検出する事例も報告され、検査体制の課題も見えてきました。

最後に、「組み換え生物汚染と放射能汚染は、人間がコントロールできないなど構造が類似している。市民の手による正確な情報を伝え続けることが大切」というアピールを採択しました。

(纐纈美千世)