日本消費者連盟
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【意見書】消費者庁に香害への対応を促すための内閣府消費者委員会への意見書(2025年5月19日)

 

内閣府消費者委員会事務局 御中

今般、消費者庁に香害への対応を進めてもらうため、消費者委員会の委員の皆様にご検討をいただきたく、添付の意見書を提出いたします。

個別の回答はなさらないとのことですので、意見書の形に致しましたが、消費者委員会での感触など、もし、お知らせいただけるようでしたら、幸甚です。

より良い消費者行政のための協働を今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

問い合わせ先:日本消費者連盟

 

 

消費者庁に香害への対応を促すための内閣府消費者委員会への意見書(2025年5月19日)

(以下に主な内容を抜粋)

 

2025年5月19日

内閣府消費者委員会委員長

鹿野 奈穂子 様

香害をなくす連絡会(以下5団体)

特定非営利活動法人 日本消費者連盟

特定非営利活動法人 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議

特定非営利活動法人 有害化学物質削減ネットワーク

認定特定非営利活動法人 化学物質過敏症支援センター

日本消費者連盟関西グループ

 

香害への対応を求める意見書

 

日頃より、消費者行政への建議等にご尽力いただき、厚くお礼を申し上げます。

私共「香害をなくす連絡会」は、柔軟仕上げ剤(以下柔軟剤)、香り付き合成洗剤、消臭除菌スプレー、制汗剤、芳香剤など、香料入りの家庭用品による健康被害(頭痛、吐き気、咳をはじめとした多くの症状)である、「香害」をなくす活動に取り組む市民団体で構成する連絡会です。

2017年以来、消費者庁及び国民生活センターに、ほぼ一年毎に要望書を提出し、香害解決に向けて意見交換の場を持っております。

 

香害に相当する問題は、消費生活相談によって国も認識しており、2013年、国民生活センターが「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」を発表し、事業者が、使用量の目安を守り周囲への配慮を求める注意をラベルに表記する対応をしました。ところが、その後も相談件数が年に130~250件程度寄せられ続けるため、2020年に再び国民生活センターが「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供(2020年)」を発表。これを受ける形で、事業者が香りの強さの目安を表示、0.01%以上の香料成分の開示を行いました。

当会からの要望もあり、2021年には、消費者庁が、5省庁(消費者庁、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、環境省)連名で、香りへの配慮を求める啓発ポスターを作成するに至りました。

ところが、残念ながら2022年度の香害に関する被害相談件数も200件を超えたとの報道がありました。消費者庁は、2023年にはポスターの改訂を行い、引き続き周知啓発を続けています。

 

以下の当会の主な活動履歴をご紹介することで、香害被害の一端がおわかりになると思います。

2017年、日本消費者連盟が『香害110番』を開設。2日間で213件の香害被害者の声が集まる。

2018年、2019年、香害・マイクロカプセル問題についての院内集会を開催。

2020年、『香害アンケート』実施。回答者9000人以上。7000人超の香害被害者が存在し、うち約20%は就業・通学に支障を来たしている深刻な被害実態が明らかに。

2023~24年、「STOP!マイクロカプセル香害」署名活動を他団体と共に実施し業界に提出。オンライ

ン署名は継続中。(2025年4月現在、12200筆超。)院内集会も開催。(注1)

 

現在、多くの合成洗剤・柔軟剤は、香料や消臭成分をプラスチック製のマイクロやナノサイズのカプセルに詰め、洗濯で衣類にカプセルを付着させ、摩擦や温度変化でカプセルを時間差で破裂させ、中から成分が放散することで、香りや消臭効果が長持ちするという徐放技術を使用しています。前出の国民生活センターの「情報提供(2020年)」内でも、専門家が「この方式ですと、一定レベルの香りが長い時間、環境中に存在し続けることになります」と指摘しているように、長時間繰り返し化学物質に曝露させるマイクロカプセルの存在が香害を拡大させている原因になっていると考えられています。

しかも、マイクロカプセルは、衣類からの飛散や衣類との接触で、他の物に再付着し、他者の所有物を汚損し、そこでも化学物質を放散するため、2次的な健康被害も生みます。使用者以外の他者に悪影響を及ぼすことが避けられない製品のため、使用者の配慮だけでは解決が難しいのです。

マイクロカプセルには、吸い込むと肺胞にまで到達するサイズのものがあり、排出されず、肺に蓄積してしまうことでの将来の健康被害が懸念されます。現在、マイクロプラスチックの人体への健康影響の可能性が続々と研究報告されているところです。

また、浄水場・下水処理場では、マイクロカプセルを完全には取り除けないため、水道水から香料臭がする、或いは、海産物、特に貝から香料臭がするという話を耳にします。マイクロカプセル香料が含まれた下水汚泥肥料を土壌に撒けば、土壌汚染し、香料臭い野菜が育ちます。マイクロカプセルが、食品に付着したり、混入したりしたと思われる香料臭のする食品も出回っています。マイクロカプセルによる、空気・水・土壌から食品、住宅などあらゆる物の汚染が進んでいます。香料製品の使用者は、嗅覚疲労を起こして気づきにくいのですが、無香料の生活をしている人は、こうした異常事態に気づき始めています。

 

厚生労働省研究班『科学的根拠に基づくシックハウス症候群相談マニュアル(改訂新版)』によれば、香害はシックハウス症候群として捉えることが出来る面があります。シックハウス症状としての香害は、香料をはじめとした化学物質の複合影響であると考えられるのです。(注2)即ち、香害対策は、香りだけではなく、化学品である製品全体の安全性に関わるものです。厚生労働省所管の家庭用品規制法は、含有する1つの物質に着目して安全性を検討していくので、残念ながら、この法に依る香害の解決には時間がかかるものと思われます。

 

最近の厚生労働省研究では、「化学物質過敏症状を訴える人の約70%の症状出現の契機が、柔軟剤、洗剤、除菌剤等に含まれる香料の香り(臭気)」であり、「生活衛生上、香料の使用は考慮される必要性がある」と結論づけています。(注3)香害が契機となり、化学物質過敏症を発症する人が増加傾向にあり、香害への対応は喫緊です。

3月に結果が公示された、第5期消費者基本計画案に対するパブリックコメントに寄せられた意見のまとめを見ても、「柔軟仕上げ剤等の香料等の影響」に関するものは1109項目と第2位となっており、香害対応を求める声は高まっています(注4)。

10年以上続く香害被害を収束に向かわせ、環境汚染を止めるためにも、消費者庁だからこそ出来る対応があります。下記の施策を消費者庁が取り組むように貴委員会から建議いただきたく、意見書を提出する次第です。

 

 

  1. 環境省と経済産業省と連携して、柔軟剤・合成洗剤をはじめ家庭用品へのマイクロカプセルの配合を自粛するよう業界を指導すること。

 

<背景説明>壁材がプラスチック製のマイクロカプセルはマイクロプラスチックであることは環境省が認めています。改正海岸漂着物処理推進法の第十一条の二によれば、通常の使用後に洗濯排水と共にマイクロプラスチックが公共水域・海域に排出されることが明らかなので、柔軟剤や合成洗剤にマイクロカプセルを配合することは、法律違反にあたります。ところが、環境省も経産省も「努力義務規定」であることを理由に業界に指導していません。(注5)EUでは、このようなマイクロカプセルの段階的な使用禁止が決定されています。

今般、第5期消費者基本計画に「マイクロプラスチックを含むプラスチックごみの発生を抑制する」との文言が盛り込まれていますので、消費者庁が取り組むべき課題です。(38ページ)

洗い流しスクラブ製品中のマイクロプラスチックビーズの使用禁止について、業界が自主基準を設けたのと同様に、同じ1次プラスチックであるマイクロカプセルについても、省庁からの指導によって、業界の自主規制を促すことができるのでないかと思われます。

 

  1. 化学品の危険有害性を示すGHS表示を合成洗剤・柔軟剤・消臭除菌スプレー等の家庭用品にも表示すること。

 

<背景説明>環境省が所管する「化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)」では、「2030年までに、全ての政府は、自国の状況に適した形で、全ての関連部門において、化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)を適宜実施する」ことが目的として求められています。(注6)

元々、消費者庁は、第2期消費者基本計画までは、「消費者の安全・安心の確保」内で、GHSの利用促進及び普及啓発を具体的施策として挙げ、関係省庁と連携して取り組んでいました。その後に業界が開発した「安全図記号」は、使用上の注意を促すだけで、製品そのものの危険有害性は消費者に伝わらず、GHS表示の代わりにはなりません。既に、EUでは家庭用洗剤などにもGHS表示を行っています。

 

  1. 家庭用品品質表示法、或いは、別の枠組みで、合成洗剤・柔軟剤・消臭除菌スプレー等の全成分情報を開示する取り組みを行うこと。

 

<背景説明>当会が、「柔軟剤・消臭除菌スプレーを家庭用品品質表示法の指定品目にしてほしい」と要望すると、消費者庁からは「同法で定める家庭用品は、購入に際し品質を識別することが著しく困難であり、かつ、その品質を識別することが特に必要であると認められるものが指定されている。柔軟剤や消臭除菌スプレーは、現行の自主表示で品質の識別が十分可能である」という回答が返ってきます。

しかし、消費者が必要としている製品に含まれる化学物質等の安全性に関する情報は、圧倒的に不足しています。現在、ラベルからは、マイクロカプセル配合製品かどうかもわかりません。香りや消臭抗菌作用が長続きすることで、香害を生みやすく、しかも、マイクロプラスチックで空気や海を汚す製品であることがわかれば、使用しない消費者が居るはずです。現行では、消費者はエシカル消費を行うこともできません。

また、香料が1%未満の洗剤には、「香料」表示義務がないため、香害にならない製品と誤解した消費者が抗菌消臭洗剤を使用することで、香害被害を広めているという実態があります。

 

以上