1990年代半ば、私が米国カリフォルニア大学で客員研究員をさせていただいていた時の思い出である。院生のマイク・ミューザー氏が、講演会を聞きに行こうと声をかけてくれた。ダイオキシン汚染で子どもの健康被害が多発したニューヨーク州ラブキャナルで、住民運動の代表として活躍した「ラブキャナルの母」、ロイス・ギブズの講演会である。ロイスらの活動があり、画期的な土壌汚染対策法、「スーパーファンド法」が成立した。
全米各地の汚染について危機的状況を話したロイスに対し、1人の男性が狼狽したように質問を投げかけた。「ではロイス、われわれはいったいどこに住むのが一番安全だというのかね。」ややあってロイスは毅然としてこう返した。「それはですね、私はそこで住民がしっかり闘っている地域に住むのが一番安全だと思います。」会場は大きな拍手に包まれた。
マイクは、スーパーファンド法の改正で付け加えられた工場等からの有害物質排出の情報公開(TRI/PRTR)のデータを地図上に落とし、市民にどう伝えるかの研究をしていた。日本に帰国してから、同様の活動をしていた中地重晴氏(熊本学園大学教授)らの「Tウォッチ(有害化学物質削減ネットワーク)」に加わり、今に至っている。
(寺田良一)