日本消費者連盟
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【回答】ゲノム編集動物食品についての質問状への九州大学の回答(2021年4月15日)

 

2021年3月30日に日本消費者連盟と遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンが出した「ゲノム編集動物食品についての質問状」に対し、九州大学から回答がありました。

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令和3年4月15日

遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン
代表 天笠 啓祐 様
特定非営利活動法人日本消費者連盟
共同代表 大野 和興 様
共同代表 纐纈美千世 様

九州大学農学研究院
アクアバイオリソース創出センター
特任教授 松山倫也

ゲノム編集動物食品についての質問状への回答について

 

ご質問にお答えする前に、我々の研究グループが現在行っている、魚類のゲノム編集研究における基本スタンスを述べておきます。

現在、獲る漁業(漁船漁業)の生産量はほぼ限界に達している一方で、作る漁業(養殖業)の生産量は年々右肩上がりに成長しています(FAO統計)。発展途上国、先進国を含め、魚食の割合は増加傾向にあり、それを下支えしている養殖業は今後も成長産業の一つになると考えられています。そのようななか、養殖業が発展するためには、養殖し易い品種や消費者の嗜好に合った品種の開発、すなわち育種が鍵となってきます。

ご存知のようにゲノム編集技術は、育種を推進する上において極めても有効な革新的技術です。これまで有用形質をもった自然突然変異を何代にもわたり交配することにより開発してきた(選抜育種)品種を、僅か数代で作り上げることができます。

我々の研究グループは、育種を迅速に進めることのできるゲノム編集技術に着目し、魚類の育種への応用技術の開発、ならびにその科学的情報基盤の整備を行うことを目的に研究を進めてきました。これらは食用魚類の品種開発における基礎研究であり、ゲノム編集で開発した品種をすぐに上市することは今のところ考えておりません。あくまでも目的は、最新のゲノム編集技術による魚類育種への応用技術開発とその科学的情報基盤の整備にあります。この科学的情報基盤の整備には、成果物の安全性評価やリスクコミニュケーション研究も含まれています。

以上をふまえまして、令和3年3月30日付け「ゲノム編集動物食品についての質問状」について、以下のとおり回答いたします。

 

質問1.調査会で議論されているゲノム編集魚類は養殖を前提で開発が進められているようですが、養殖場から逃げ出した際の環境への影響を評価していますか。評価しているなら、それを公開してください。評価していない場合は、その理由を示してください。

回答:我々が飼育しているゲノム編集魚は全て、定められた拡散防止措置を講じたP1Aレベルの実験室内で飼育しています。現在、上市は考えていませんが、将来の産業化に当たっては、自然界への逃亡リスクが極めて低い陸上の閉鎖式循環水槽での養殖を想定しています。さらに、それら養殖魚を不妊化する技術も併せて開発中です。不妊化により、万一逃亡しても遺伝子汚染は防止できますし、盗難されても繁殖できないため知財の保護ができます。したがいまして、「環境へ影響しない飼育法を開発中である」が回答になります。

 

質問2.京都大学の木下政人氏や九州大学の松山倫也氏が研究開発するゲノム編集魚類を養殖する際に、環境中に逃げ出すのを防ぐために、どのような対策を講じますか。 対策の詳細を示してください。また、その対策をとれば、100%防護できますか。

回答:質問1の回答内容と同じです。陸上閉鎖式循環水槽での飼育に加え、不妊化技術が開発できれば、万一環境に逃亡したとしても、遺伝子汚染は防げます。

 

質問3.ゲノム編集魚類のオフターゲット及びオンターゲットはどのように調べましたか。 全ゲノムを調べたならのデータを公開してください。それとも一部しか評価していないのでしょうか。その評価でどのような結論が出たのでしょうか。

回答:我々は現在、攻撃性に関する遺伝子をノックアウト(KO)したマサバを開発しました。オンターゲットに関しては、標的遺伝子の関連領域をPCRで増幅し、5塩基欠損のホモKOであることを確認しています。形質評価(攻撃性の低下等)を含め論文化するに当たり、情報の詳細を公開予定です。
マサバに関しては、通常(野生型)のマサバについて全ゲノムの塩基配列情報を解析、取得しました。今後、ゲノム編集したマサバの全ゲノムの塩基配列情報を取得し、野生型と比較することにより、オフターゲットの有無を明らかにする予定です。

 

質問4.モザイクの存在は調べたのでしょうか。調べたのであれば、どのような調べ方をしたのか、加えてそのデータを公開してください。もし調べていないのなら、その理由を開示してください。

回答:「モザイクの存在」の意味がよくわからないのですが、最初、受精直後の受精卵にゲノム編集試薬を顕微注入しますが、発生の細胞分裂に伴い、ゲノム編集試薬により標的遺伝子に変異が生じた細胞、変異の生じなかった細胞がでてきます。すなわち、このF0世代個体の体は、変異のある細胞と変異のない細胞のモザイクで構成されています。
ご質問の「モザイクの存在」がこのことであれば、その個体においてのモザイク率は変異の生じた細胞の全細胞に対する割合で表すことができます。稚魚の体全体からDNAを抽出し、コロニーハイブリダイゼーション(colony hybridization)という方法で推定できます。
例えば、マサバを用いた攻撃性を抑える遺伝子をゲノム編集試薬TALENでノックアウト(KO)した実験では、F0世代における各個体のモザイク率は30~90%という値が得られています。論文にして「データの公開」を行います。、

 

質問5.エピジェネティックな異常は見られなかったのでしょうか。その評価の方法について示してください。

回答:エピゲノムに関してはまだ解析していません。今後、エピゲノム情報は、全ゲノムバイサルファイトシークエンシング(Whole Genome Bisulfite sequencing)により解析する予定です。また、遺伝子発現パターンの変化の有無についてはトランスクリプトーム解析で明らかにする予定です。

 

質問6.ゲノム編集された肉厚マダイは、通常のマダイに比べてどの程度肉量が増えますか。 肉量が増えることで、たんぱく質やアミノ酸、その他の成分でどのような変化が生じていますか。それにより食べものとしての安全性に問題は生じないのでしょうか。生じないとすれば、その根拠を示してください。

回答:京都大学への質問であるため、回答いたしかねます。

 

質問7.ゲノム編集技術を応用することで、遺伝子に予想外の変化が生じるなど、食品の安全性に問題が生じる可能性がありますが、その点についてはどのように確認しましたか。 動物実験などで食品としての安全性評価を行っていますか。行っていれば、そのデータを公表してください。行っていないなら、 理由を示してください。

回答:食品としての安全性検査は動物実験などでこれから行う予定です。

 

質問8.商品化の壁になる特許権問題はどのようにクリアしましたか。具体的に示してください。その他の知的財産権に関して、問題は生じていないのでしょうか。

回答:これまでの基礎的研究ではTALENやCRISPR/Cas9を使っており、今後も研究レベルではこれらの使い易いツールを使います。一方で、将来の商品化に備え、国産ゲノム編集技術PPR(九州大学、中村崇裕教授)を用いた品種改良も進めています。知財に関しては協議中です。

 

質問9.ゲノム編集された魚類を販売する際、ゲノム編集で遺伝子を改変した旨を表示しますか。もし表示するとなると、どのような表示になりますか。表示しないなら、その理由を示してください。

回答:既述のように、現在上市の予定はありません。我々は、安全性評価を含めた科学的基盤情報の整備を引き続き推進するとともに、それに基づいたリスクコミュニケーション研究も推進する予定です。今後、海外における規制の検討状況の進展や新たな知見が得られた場合、必要に応じて行われる国の取扱要領の見直しに対処しつつ、上市する状況になったときに、それに相応しい表示をすることになると考えています。

以上