アメリカのカリフォルニア州で、今年11月、食品のGMO表示を州法で義務づける画期的な法案が住民投票に掛けられることになりました。
「カリフォルニア遺伝子組み換え食品を知る権利法(The California Right to Know Genetically Engineered Food Act)」略称「プロポジション(提案)37」がそれ。成立すれば、アメリカの消費者にとって歴史的な勝利となり、その影響力ははかり知れません。
アメリカでは現在、遺伝子組み換え作物/食品(GMO)表示制度がありません。それどころか、「遺伝子組み換え不使用」という非GMO表示が禁止されてさえいます。表示制度のある日本やEU、途上国でGM作物への消費者の警戒感が強いため、売れ行きが伸びないのに対して、アメリカではコーンスープやコーンフレーク、豆腐など、アメリカ人が毎日食べる食品のほとんどにGM作物(トウモロコシ、大豆、ナタネ)が使われています。北米はGMOの世界最大の市場になっています。
カリフォルニア州は、アメリカの人口の10%を抱える最大人口州。カナダのケベック州とならんで、生協活動など社会的実験がさかん。自動車排ガスなどの環境政策で「アメリカで最も先進的な州」として知られます。
「提案37」の内容とは?
GMO表示制度は、州の「健康安全法(シャーマン食品医薬品化粧品法)」に条文を追加して定めることになっています。その内容は、
- 全部または一部が遺伝子工学を用いて製造されていて、「遺伝子組み換え農産物」(原料農産物の場合)、「部分的に遺伝子工学により製造」または「部分的に遺伝子工学により製造された可能性あり」(加工食品の場合)の表示がない場合は「違法表示食品」とする
- こうした原料農産物や加工食品に「自然栽培」「自然食品」など「自然」の表記をすることを禁止する
というもの。ただし、次のような例外規定もあります。
- 一部または全部GM飼料で飼育された動物由来の食品
- GMOであることを知らずに栽培した原料農産物またはその加工品
- ひとつまたは複数のGM加工補助剤またはGM酵素のみを含む加工食品
- アルコール飲料
- 原材料に含まれるどの単一GMO原材料も重量比で0.5%を超えず、かつそうした原材料の数が10を超えない加工食品
- 独立機関が、GMO種子またはGM食品を意図的に混入させたのではないことを規定のサンプリングとテストによって確認した食品
- 連邦法によって「有機」認証を受けた食品
- 食堂などの外食で提供される食品。
bやfの例外規定は、日本から見ればちょっと奇妙な感じを与えますが、主要穀物の8割前後がすでにGMOというアメリカの現状では、花粉の飛散などによる遺伝子汚染や、意図せざる混入が避け難いという事情を反映しているものと思われます。
aのGM飼料で飼育した動物に由来する食品(肉、乳製品など)が表示対象になっていないのは、いまのところ世界一規制が厳しいEUでも同じ。表示をめぐって、GMO業界はここだけは頑として譲りません。それは、現在流通しているGM穀物の大部分が飼料用として使われているからです。
また、アルコール飲料や食品加工補助剤、外食が表示対象から除外されていることは、EUのGMO規制に比べれば抜け道が多く、日本のGM表示制度(食用油、醤油などは表示対象外)と同様、業界の圧力との妥協の跡を見ることができます。
しかし、カリフォルニア州で成立すれば、早晩全米に波及することは目に見えているため、その影響力は計り知れません。
モンサントなど業界は必死の抵抗
モンサントなどGMO開発・販売企業や、ペプシコなどGMO利用企業は、表示反対キャンペーンにすでに2500万ドル(約19億円)を投入。今後倍増させる計画です。最近行われた世論調査では、カリフォルニア州住民の65%が「提案37」に賛成しています。今後、GMO業界による猛烈な宣伝キャンペーンにより、この数字は下がっていく可能性がありますが、過去にカリフォルニア州で行われた住民投票の結果では、最初の世論調査で60%を超える賛成を得た法案のほとんどが成立しているそうです。
(共同代表:真下 俊樹)