日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
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近藤駿介 原子力委員会委員長への核燃料サイクル政策選択肢のコスト計算方法に関する公開質問状

福島第一原発4号機の使用済核燃料プール

2012年6月21日付原子力委員会決定「核燃料サイクル政策の選択肢について」が、再処理をやめるオプションについてやっているコスト計算、ちょっとヘンじゃない? 委員でもない「原子力村」の事務局が勝手に入れ込んだ、再処理中止・全量直接処分のコストを高く見せようとする計算が、最終決定にまでもちこまれてしまっています。それについて、近藤俊介委員長が、前文で歯切れの悪い言い訳。何これ?—— 福島をあんな悲惨な目に遭わせておきながら、なおも隙あらば失地挽回しようと虎視眈々と狙っている原子力村の官僚たちと、それを温存させようとする原子力委員会に黙っていられなくなり、日消連は近藤・原子力委員長に公開質問状を送りました。

原発とならんで、核燃料サイクル(再処理)をどうするかも焦眉の課題です。

新たな放射能汚染事故という点では、大量の使用済燃料を溜め込んでいながら、格納容器のような放射能封入構造がない再処理工場や使用済燃料貯蔵プールは、自然災害やテロに対して最も脆弱で、原発の比較にならない被害をもたらす危険性を抱えています。かつて欧州議会が発表した委託研究は、再処理工場の使用済燃料貯蔵プールの冷却が長時間止まれば、「ジルコニウム火災」によってチェルノブイリ原発事故の60倍に上る放射能が放出される恐れがあるとしています。

にもかかわらず、政府・業界は、福島原発災害を経験した現在もなお、六ヶ所再処理工場を何が何でも動かそうしています。その理由のひとつは、現在日本全国の原発サイトの使用済燃料貯蔵プールが満杯に近づいていて、全体の残余容量があと6年あまりしかないことにあります。使用済燃料の置き場がなくなれば、原発を止めるほかなくなるのです。しかし、六ヶ所再処理工場が動けば、再処理を理由に各原発サイトの使用済燃料をともかくも六ヶ所(あるいは中間貯蔵施設)に運び出すことができるからです。(もうひとつの理由は、六ヶ所で再処理が始まらないかぎり、私たちの電気料金に上乗せされて徴収されている「再処理等積立金」を日本原燃が受け取れないためです。)

原発の放射性廃棄物そのものである使用済燃料は、全量直接処分(ワンス・スルー)が安全の面でも、安全保障の面でも最も問題少ない処理方法です。次の大災害が起きる前に、使用済燃料をプールから取り出して、輸送用などにも使われている空冷式の乾式貯蔵に切り替える必要があります。

原子力委員会(とくにその下の原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会)は、使用済燃料をどうするかをめぐる議論の中で、全量直接処分、再処理/直接処分併存/全量再処理の各シナリオごとにコスト計算をしてきました。ところが、議論の過程で、原子力委員会の事務局が、委員長が定めた方針を無視して全量直接処分のコストが高く出るような計算方法を提出し、それがわが国の再処理の将来をめぐる原子力委員会の最終決定に大きな影を残しているのです。

近藤委員長には、私たち国民の前に事実関係を明確に示し、その間違いを正す責任があります。

(共同代表:真下俊樹)


2012年9月15日
12年日消連第21号

原子力委員会委員長 近藤 駿介 様

特定非営利活動法人 日本消費者連盟
共同代表 天笠 啓祐
古賀 真子
真下 俊樹
山浦 康明

 

核燃料サイクル政策選択肢のコスト計算方法に関する公開質問状

 

私ども日本消費者連盟は1969年の設立以来、「すこやかないのちを未来へ」をスローガンとして、消費者の権利の確立をはじめ、わが国消費者の暮らしの安全安心をめざして活動を続けてまいりました。私たちが毎日消費している電気を通して、その生産技術としての原子力問題にも1970年代より積極的に取り組んでおります。とくに福島原発事故以後は、食品の放射能汚染とともに、脱原発・脱核燃料サイクルの実現に力を入れており、わが国の原子力政策が抜本的に見直されている現在、貴原子力委員会の動向にも特段の注意を向けています。そのようななか、貴委員会が去る6月21日に決定された「核燃料サイクル政策の選択肢について」に関し、その根拠となるコスト計算について疑問を持つに至りました。

2012年6月21日決定の「核燃料サイクル政策の選択肢について」[1]は次のよう述べています。

「現在の政策を変更して別の政策を選択し、推進していく場合には、様々な調整が必要になり、そのための投資も必要になる。技術小委の報告にある「政策変更に関わる課題」やそれに伴う政策変更費用は、新しい政策の推進に伴う潜在的困難の克服に要する費用を一つのモデルで試算したものであるが、これは新政策の推進に傾注するべき努力の大きさを示唆しているものと理解されるべきである。」(「核燃料サイクル政策の選択肢について」p. 2-3。強調は引用者)

文中で言及されている平成24年5月23日(水)の新大綱策定会議(第19回)で提出された原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(以下、技術小委)報告のなかの「資料第1-4号 各原子力比率におけるステップ3の評価」[2]では、経済性を検討する際に、追加的に考慮すべき費用として、次の二つが挙げられています(p. 29-30、p. 71-72、p. 113-114、p. 154-155の各ページ。*A、Bの記号は引用者による)。

A.「経済性:シナリオ毎に考慮する必要がある費用」[3]:シナリオを実現するために今後追加となる費用(下の引用スライドを参照)

B.  「経済性:その他考慮すべき費用-立地自治体との条件の変更に伴い追加の可能性のある費用-」[4](下の引用スライドを参照)

 

これについて、以下質問いたします。

●質問1

「核燃料サイクル政策の選択肢について」の上記文中にある「それに伴う政策変更費用は、新しい政策の推進に伴う潜在的困難の克服に要する費用を一つのモデルで試算したもの」であり「新政策の推進に傾注するべき努力の大きさを示唆しているもの」とは、具体的には:

  1. 上記AとBの両方を指すのでしょうか? それとも、Bだけを指すのでしょうか?
  2. Bだけを指す場合、Aはどう扱うべきと近藤委員長はお考えなのでしょうか?

●質問2

Bに関し、近藤委員長は、技術小委第11回 (2012年4月12日)において、「そこは前のときもそうなので、私も何回も申し上げたんだけれども、皆さん勝手に足し算しちゃったんだけど、政策変更コストというのは、つまり金銭換算して、難しさのマグニチュードを表現しただけなんです。[…]足し算をするものではないということさえ了解しておけばいい」と述べています。これについて:

  1. 「何回も申し上げた」とは、どのような場でのことでしょうか?
  2. 「勝手に足し算しちゃった」という「皆さん」とは、具体的には誰ですか?
  3. 近藤委員長が何度も指摘されたにもかかわらず、今回の技術小委報告書でも、本来足してはならない項目が、その旨の明記もないまま足し算すべきものとの誤解を招きやすい形で並べられ、そのために6月21日の原子力委員会決定でわざわざ冒頭のような宣言をしなければならなくなったのはなぜでしょうか?事務局が技術小委員会用の資料を作成したさいにも、「皆さん」の勝手な行動を防げなかったということでしょうか?

●質問3

ケースⅡを整理し直した前ページの表から明らかな通り、この計算では、対象期間を1年、あるいは、1分に限っても、4.6兆円が全量直接処分の費用に加算されることになり、論理的に問題があると考えられます。近藤委員長は、これが妥当な計算方法だとお考えでしょうか? 次にAに関してお伺いします。技術小委の計算は、基本問題委員会などの議論に合わせて計算対象範囲を2010〜2030年としています。技術小委第12回(2012年4月19日)に貴委員会事務局が提示したケースⅡの計算[5]を例に取ると、この20年間に発生する使用済み燃料は、1.6万トンです。シナリオ3(全量直接処分)では、この期間の費用に、すでに発生している1.7万トンの使用済み燃料に関連したほとんどの費用を加算しています。この計算方法では、結果的にシナリオ1(全量再処理)の1.6万トン分関連費用と、シナリオ3の計3.2万トン分関連費用を比較することになり、その結果シナリオ3が高く見える形になっています。

●質問4

最後に、Aの足し算が提案され、技術小委員会最終報告に残った経緯についてお伺いします。鈴木達治郎技術小委員会座長は、新大綱策定会議第17回(2012年4月24日)において、Aに関して説明が不十分だった」「資料から誤解を招いた報道がなされた」「混乱を招いた」と述べています。これだと、マスコミの一部が誤解に基づいて加算すべきでない項目を加算し、シナリオ3(全量直接処分)が実際よりも高くつくかのように報道してしまったのが問題だ、と取れます。しかし、技術小委第12回(2012年4月19日)の議事録を見ると、事務局がこれらの項目を加算することを明確に「提案」しています。「混乱」の原因は、そのことにあるのではないでしょうか。しかも、技術小委第15回(2012年5月16日)の議事録によると、Aに関して田中治邦日本原燃常務が「4.6兆円は間違いなく生じるから、そのまま報告書に残して、足すべき」という趣旨の発言をしたことにより、Aの足し算方式をそのまま報告に残すことになったと理解されます。

事務局が間違った提案をし、さらに、技術小委の委員でもない田中常務が発言を許され、その発言が技術小委報告に影響を与えたことは、原子力委員会の信頼性・独立性に疑念を抱かせるものです。論理的に間違った計算方法を提案した事務局の責任について明確に説明し、Aを削除した原子力委員会決定を行うことは、近藤委員長の委員長としての当然の責任と考えますが、いかがでしょうか?

* * * * * *

上記の質問1〜4について、文書にて下記宛てに9月28日までにご回答いただきたく、お願い申し上げます。なお、本質問状およびご回答は、私どものウェブサイト(https://nishoren.net)上で公開させていただきます。

連絡先:

特定非営利活動法人
 日本消費者連盟(真下)
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1-9-19-207
Tel: 03-5155-4765
Fax: 03-5155-4767


[1] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/kettei120621_2.pdf

[3] 上掲「資料第1-4号 各原子力比率におけるステップ3の評価」, p.29。

[4]上掲資料, p.30。

[5] 「ステップ3の評価:2030年まで (原子力比率IIのケース) (改訂版)」 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo12/siryo1-2.pdf, pp. 4,14-18)