消費者リポート3月号は、「忘れつつある人たちへ 原発事故による健康影響はこれから」という特集でした。自然と忘れてしまった人も、忘れさせられている人も、忘れるしか方法がなかった人も、どれも1人の人間の中にあるものとして取材をしました。そういえばという人も、何で今さらという人も、煽るな蒸し返すなという人も、いることを承知しています。
科学的に証明されていないことに文句を言うな。これまでどれほどこのセリフを聞いてきたことでしょう。原発と健康影響の関係だけでなく。香り付き商品と香害被害の関係も、遺伝子組み換え食品とその長期にわたる健康影響の関係も。証明された時には被害者はそこにはいない。そのことを公害の歴史の中でどれだけ経験してきたでしょう。疑わしきは罰せずではなく、疑わしきはできるだけ避ける。それが健康と命を大切にする市民の当たり前の感覚です。
特集が終わったあとに、改めて福島の浜通りを旅しました。福島第一原発のすぐそばまで線量計を持ちながら行きました。まだまだ高線量で、避難区域の解除は殺人的だと思いました。現地の酪農家のかたのお話も聞き、生産者の苦労は並大抵ではないと感じました。それでも「食べて応援」は誰かが強要するものではないということも感じてきました。
不安を感じて口にする人と復興を早く進めたい人、できるだけ線量を落として農作物を食べてもらいたい農家とできるだけ放射線影響の少ない食べものを食べたい消費者。この矛盾は私たちが無理やり解消すべきものではありません。矛盾は矛盾として認めあいながら、本来の責任者である東電と政府に責任を取らせていく必要があると痛切に感じました。
(杉浦陽子)