食料システム世界市民サミット――国連食料システムサミットに対抗して
今年(2021年)の9月、アントニオ・グテーレス国連事務総長の呼びかけによる「国連食料システムサミット」が開かれます。「より健康で、より持続可能かつ公平な食料システム」の構築を目標にしたこの国際的なイベントにおいて、そして「国連家族農業の10年(2019年~2028年)」真っただなかの2021年において、本来であれば、世界の食料生産額の8割以上を占める家族農業、小規模農業を営む人々の参加とその意見の反映は、計画段階からしっかりと確保される必要がありました。
しかし、2020年に具体的な議論が始まっても、小規模農民グループらが訴えてきた人権や土地収奪の問題は議題の中心にならず、土地の集積、農業のサプライチェーンの独占、バイオテクノロジーを含む食の工業化を推進する企業と関連団体が、意思決定に多大な影響を及ぼしてきました。これに対して、多くの市民団体が連名で書簡を送り、サミットの準備プロセスの見直しと意思決定の透明性の確保、そのための対話を要求してきましたが、抜本的な見直しは行われませんでした。そしてこの3月、グローバルサウスと言われる南の国々(東南アジア、南米、アフリカの国々)の小規模農民のグループを中心としてサミットへのボイコットが表明され、対抗サミット「食料システム世界市民サミット(GPS)」が立ち上がったのです。
下記の声明は、この対抗サミット開催の宣言とともに発表されたプレスリリースです。未来の農業のカギを握る世界中の小規模農民団体やそうした人々と意を共にする数多くの市民団体が、国連のイベントをボイコットしてまで訴えたかったこととは何か? 日本消費者連盟の国際委員会が仮訳を作成しましたので、どうぞご一読ください。なお、日本消費者連盟は「食料システム世界市民サミット」の運営団体の一つ「ストップ・ゴールデンライス・ネットワーク(SGRN: Stop Golden Rice Network))に参加しています。
食料システム世界市民サミット組織委員会(Global People’s Summit Organizing Committee)
プレスリリース
2021年6月5日
「国連食料システムサミット(2021年9月、ニューヨークにて開催予定)」に対抗する市民運動;食料システムを企業の支配から取り戻す呼びかけ
6月5日の世界環境デーに合わせて、今年後半に開催予定の国連食料システムサミット(UNFSS)に対抗するサミット「食料システム世界市民 サミット(GPS)」を、世界中の市民運動や市民社会組織が立ち上げました。GPSの主催者は、UNFSSが大企業と結びつき、地方の小規模な食料生産者を排除していることをこれまで批判してきた数百の市民社会組織や先住民組織と行動を共にします。
「今年の世界環境デーのテーマは、『生態系の回復』です。生態系の回復のためには、食料システムを取り戻し、企業のコントロールを取り払う必要があります。食料と農業における既存の新自由主義的な政策は、地球を破壊します。UNFSSが明確に方向性を示しているように、このような企業寄りの政策を継続し、さらに強化することは、さらなる生態系の破壊を意味します。市民サミットは、公正、公平、健康、持続可能で、市民寄りで地球寄りの食料システムへの変革に取り組む場となるでしょう」と、食料主権民衆連合の共同議長であるラザン・ズアイターは語りました。
「農薬監視行動国際ネットワーク アジア、太平洋(PANAP)」の事務局長のサロジェニ・レンガム(Sarojeni Rengam)は、世界市民サミットは、国連と世界経済フォーラムの戦略的パートナーシップや、国連食糧農業機関(FAO)と世界の大手農薬メーカーの業界団体であるクロップライフ・インターナショナル(CLI)との間の有毒な同盟(#ToxicAlliance)に代表されるような、企業による支配に対抗するためのものだと述べました。「私たちは、企業の利益が公共の政策空間を支配することを黙認しません。世界市民サミットは、一握りの企業が土地や生産資源、そして食料生産の方法を支配し、とうに信頼を失っている有害な技術的解決策を用いている、食料システムの企業化に反対するための呼びかけです。真の食料システム変革の中心にあるのは、食料への権利、市民の食料主権、アグロエコロジーですが、UNFSSはこれらすべてを除外しています」とレンガムは述べています。
市民サミットは、土地を持たない農民、農業労働者、漁師、先住民、農山漁村女性、若者など、世界の食料の70%を生産しながらも、世界で最も貧しく食料不安を抱える小規模な食料生産者の運動を中心に構成されています。
「UNFSSのアジェンダには、土地を持たない人々、土地収奪の問題は含まれていません。アクション・トラックと呼ばれる議論のどこにも、大規模アグリビジネス企業とそのネットワークである地域の地主やコンプラドールへの土地の集中と再集中、大規模な民間投資や大規模な開発プロジェクトのための農山漁村コミュニティの大規模な移転など、重大な動向が強調されていません。」と、アジア農民連合(APC)会長のチェンナイア・ポグリ(Chennaiah Poguri)は、言っています。
また、先住民の自決と解放のための運動(IPMSDL)のジテン・ユムナン(Jiten Yumnan)は、「サミットは、農山漁村の人々、特に先住民族の土地の喪失と貧困化を招いている開発侵略プロジェクトによって引き起こされる大規模な人権侵害に対処していません。私たちが自決権や独自の生活様式、先住民の食生活などを主張すると、しばしば犯罪者扱いされ、誹謗中傷され、さらには殺害されることもあります。土地を奪う企業は、その資金提供者や後ろ盾となっている政府も含めて、責任を問われるべきですが、UNFSSの会話ではこのような声はどこからも聞こえてきません」と述べています。
「UNFSSはしばしば若者を擁護しています。しかし、輸入食品の流入によって地元の農業が破壊されてしまったら、私たちにどんな未来があるでしょうか。国内の食料需要に応えず、食の権利より利益を重視する『グローバル・バリュー・チェーン』を求める企業の単一栽培のために土地が奪われ、熱帯雨林が伐採されたとき、私たちにはどんな未来があるのでしょうか」と、食料主権青年団のラマート・ヒダヤット(Rahmat Hidayat)は述べています。
「多くの国家元首が、持続可能な食料システムを推進し、気候変動や生物多様性の損失を食い止めるために、強力な行動を起こす必要性を確認しているにもかかわらず、実際には、持続不可能な畜産業やその他の形態の工業的な食料生産が、いまだに政府によって強く奨励されています。また、官民パートナーシップや公的資金と民間資金を組み合わせた資金調達を推進するイニシアチブの増加により、公的機関は企業の資金にさらに依存するようになっています。その結果、多くの機関の意思決定に企業がより大きな影響力を持つようになっています。例えば、UNFSSがこのサミットの結果に直接影響を与えると約束していることが、食料主権を守り、生物多様性を保護し、気候変動の危機に対処するための緊急かつ効果的な行動よりも、私利私欲を守ることに重点を置いた政策決定につながっています」とグローバルフォレスト連合のキャンペーン・コーディネーターのイシス・アルバレス(Isis Alvarez)は述べています。
「多国籍企業が急に良心を取り戻し、利益を拡大するために必要なことをやめるという証拠はありません。このサミットに多国籍企業が参加することで、アジア太平洋地域の女性にとって公正で公平な食料システムが実現すると考えるのは甘いでしょう」と、アジア太平洋女性・法・開発フォーラムのプログラム・オフィサーであるマルヨ・ブスト(Marjo Busto)は述べています。
「食料システム世界市民サミット」では、最も多くの農山漁村地域の人々、住民組織、市民社会組織、支持者が集まり、公正、公平、持続可能な食料システムに向けて現在の食料体制を根本的に変革するための宣言を作成します。また、市民サミットでは、私たちの目標を実現するために、主要な成果として「市民行動計画」を策定します。この行動計画は、今月から各国・地域で開催される各国・地域・セクター別のサミットやテーマ別のワークショップの成果に基づいて作成されます。
世界市民サミットの主要イベントは、2021年9月に開催される3日間の本会議で、オンライン会議とリアル会議の両方で行われます。本会議中は、毎日参加国のいずれかの国でストリート会議(集会)が開催されます。4日目には、市民の役割と関与を強調するために、「公正で公平かつ持続可能な食料システムのための世界行動デー」を開催して、本会議を終了します。
世界市民サミットは以下の団体によって運営されています。
- 食料主権市民連合(PCFS: People’s Coalition on Food Sovereignty)
- 農薬監視行動国際ネットワーク アジア、太平洋(PANAP: PAN Asia Pacific)
- アジア農民連合(APC: Asian Peasant Coalition)
- アラブ自然保護グループ(APN: Arab Group for the Protection and Nature)
- 食料主権を求めるアラブの人々の会(ANFS: Arab People for Food Sovereignty)
- 東南部アフリカ小規模農民フォーラム(ESAFF: Eastern and Southern Africa Small-scale Farmers Forum)
- 先住民の自決と解放のための運動(IPMSDL: Indigenous Peoples’ Movement for Self-Determination and Liberation)
- 国際農業労働者連合(CAWI: Coalition of Agricultural Workers International)
- アジア農山漁村女性連合(ARWC: Asian Rural Women’s Coalition)
- グローバルフォレスト連合(GFC: Global Forest Coalition)
- 利益より人(POP: People Over Profit)
- アジア・パシフィック・リサーチ・ネットワーク(APRN: Asia Pacific Research Network)
- IBON財団(IBON International)
- 女性・土地・開発に関するアジア太平洋フォーラム(APWLD: Asia Pacific Forum on Women, Land and Development)
- ストップ・ゴールデンライス・ネットワーク(SGRN: Stop Golden Rice Network)
- 農薬監視行動国際ネットワーク 北米支部 (PANNA: Pan North America)
- ア・グローイング・カルチャー(A Growing Culture)
- 食料主権青年団(YFS: Youth for Food Sovereignty)
Global People’s Summit on Food Systems:
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