1962年に米国ケネディ大統領によって初めて、消費者の権利が提唱されました。日本も高度成長期に入ったところで、当時「消費は美徳」などという言葉がはやった時代でもあります。その後、それは1980年に国際消費者機構によって8つの権利として発展的にまとめられました。「安全である権利」「知らされる権利」「選択できる権利」「意見を反映させる権利」「消費者教育を受ける権利」「生活の基本的ニーズが保障される権利」「救済を求める権利」「健康な環境を求める権利」です。いま、遺伝子組み換え食品の表示改正問題が最終段階に来ていますが、食品表示は、このほとんどに当てはまる基本的な権利だといえます。
しかし、政権与党や日本政府は、この「消費者の権利」という言葉が嫌いなようです。梅田正己さんの『日本ナショナリズムの歴史』(高文研刊)を読んでいて、次のような場面に出会いました。梅田さんは、高文研という出版活動を通して、生涯かけて教育問題に取り組んでこられた方です。そのため教科書検定の歴史に詳しいのです。1982年用教科書でかつてない厳しい検定が行われ、それまでの「こう書くな」という指示から「こう書け」という指示に変わったそうです。その指示で「消費者の権利」はダメ、「消費者の生活」に書き換えろ、となったそうです。「軍縮」は「防衛力」に書き換えが指示されたそうです。この年の検定で、丸木位里・丸木俊夫妻の「原爆の図」の削除も命じられています。消費者の権利が今ないがしろにされていますが、政府は消費者に権利を主張されるのが、もともと大嫌いなようです。
(天笠啓祐)