日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
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風評被害に対する賠償の範囲・対象を拡大せよ:東京電力に申入れ


関東圏を中心とした生産者、生協や自然食の小売店などから、東電への賠償請求をどのようにしたらよいのかという質問が寄せられています。風評被害の直接請求による賠償請求が認められないなか、実際に賠償請求を認められた例や否定された例をもとに、東電へ、賠償基準の見直しと賠償に誠実に対応するように求める要請書を提出しました。

 東電に賠償責任があることは明らかですが、実際に賠償請求する場合には、東電の窓口への直接請求(注1)、原子力損害賠償紛争解決センター(以下センター。注2)に申立て、弁護士が和解の仲介により賠償を請求する方法、訴訟の提起という3つの方法があります。

東電は公正かつ迅速な賠償を行う観点から、原子力損害賠償紛争審査会が作成した中間指針(注3)でしめされた賠償項目ごとに賠償基準を策定し、それに基いて賠償を行うとしています。そして、指針で示されていない損害項目も原賠法に基き、相当因果関係の認められる損害については、指針及び東電の賠償基準等を踏まえ、本賠償の協議をするとしています。しかし、協議で合意に至らない場合は、センターや訴訟手続きを利用せざるを得ない状況ですが、現実には和解は進んでいません。

また、迅速な賠償をさせる目的で、原子力損害賠償紛争審査会の専門委員会は調査報告書や中間指針を出していますが、そこで明確に記載されていない点については、東電はできるだけ賠償範囲を狭めて賠償を拒絶しているようです。

東電のHPでは、「中間指針に示されていない損害項目についても、原子力発電所事故と相当因果関係の認められる損害については、個別にご事情を伺わせていただきますので、弊社コールセンター(福島原子力補償相談室(コールセンター0120-926-404)までお問い合わせください。」としています。

消費者リポート1508号では、直接請求で営業利益や検査費用の賠償請求を勝ち取った生活協同組合の事例を紹介しています。しかし、同地区やそのほかの地区でも、生協などが逸失利益や検査費用請求をしてもサービス業であるとして賠償は認められていません。

これらの生協は東電の補償請求書を使い、添付書類も揃えて提出しているのに、サービス業であるから、請求対象者ではないとされているのです。同様の業態である生協が、同じような地域で事業内容も同様であるのに、検査費用だけでなく、営業損害も認められたところと、全く認められないところがあることは不合理であると言わざるを得ません。

日消連では2012年4月27日、東電に対して、以下の申入れを行いました。

(共同代表 古賀 真子)


(注1) 賠償請求をうける窓口は東京、福島201110月1日付で東北補償相談センターが仙台市内に設置。福島、柏崎、栃木、群馬、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川に設置予定とされている。

(注2) 2011年9月から稼働。東京都港区新橋に存在する原子力発電所の事故により被害を被った人々が円滑、迅速、構成に紛争を解決することを目的として設置される公的機関。文部科学省の設置する原子力損害賠償紛争審査会の下部組織で、様々な機関に所属する法律の専門家によって構成されている。業務の進行管理はセンター内の総括委員会が行い、弁護士などの仲介委員が和解案の提示や仲介を行う。和解の成立率は4%と低く、期待外れとの批判がある。

(注3) 原子力損害賠償紛争審査会 「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」 (平成23年8月5日)


                                                                                                           2012年4月27日
2012年日消連第5号

東京電力株式会社
社長 西澤 俊夫 様

特定非営利活動法人 日本消費者連盟
共同代表 天笠 啓祐
古賀 真子
真下 俊樹
山浦 康明

風評被害にかかる損害賠償についての要請文

冠省

 日本消費者連盟は1969年の創立以来、個人会員制の消費者団体として、「すこやかないのちを未来に」をスローガンに、生きていく上で最も基本的な消費財である食の安全やエネルギー生産の安全性などを中心として消費者の権利を守る運動を進めてきました。2011年3月の原発震災以降は、脱原発と食品の放射能汚染の問題に消費者の立場から取り組んでいます。

 消費者にとって、日々自ら食べ、子供たちに与える食品の放射能汚染は、いうまでもなく焦眉の問題です。本年4月から政府の食品に含まれる放射性セシウムの規制値が厳格化されました。しかし、①国が保有している検出精度の高いゲルマニウム半導体検出器の数は全国でわずか216台であり、2011年10月〜11月の測定件数は1日に661件しかないなど、測定の網の目が極めて荒いのが実情であること、②新基準はセシウムのみで、ストロンチウムなど他の放射性核種が含まれていないこと、③新基準は、食品の摂取による内部被ばく線量が年間被ばく線量が国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告している一般公衆の最大年間被曝線量である1mSvを超えないことを前提にして決められているが、外部被曝、食品以外の放射能の粉じんの吸入等による内部被曝が重なった場合には総被ばく線量がこれを超える可能性があること、④このICRP勧告自体、これ以下ではリスクがあるか否かが確認できないという値であり、これ以下なら安全という閾値ではないこと、などの理由から、「市場に出回っている食品は政府の新基準をクリアしているはずだから、安心して子どもに食べさせられる」と感じている親は皆無と思われます。このため、消費者、とくに食品の安全性に敏感な消費者や、小さな子を持つ親御さんたちは、市場で売られている食品の汚染状態を直接確認できる情報を強く求めています。

 日本消費者連盟では、放射能測定には自治体の役割が重要であることから、11年12月21日に、東日本を中心とした131自治体(1都1道20県、87の市町村と東京23区)に対して、自治体としてどのような放射能測定体制をとっているかをアンケート調査しました。回答は104の自治体から寄せられ、この問題に対する関心の高さをうかがわせました。その結果、11年8月以降、東日本の多くの自治体が検査を求める住民の要請に応えるため高額の測定器を購入している事実が明らかになりました。

 とはいえ、残念ながら、自治体の検査体制は不十分であり、農漁業生産者や食品加工業者、生協など流通業者は、顧客を繋ぎ止めるために、取り扱う商品の測定を外部に委託したり、測定器を購入し、測定要員を養成して自ら測定を行わざるをえないのが実状です。なかでも、取り扱う食品の安全性で差別化してきた業者にとって、食品の放射能を自ら測定し表示することは、まさに生き残りの条件となっています。

 また、被災地の農作物の大半が検出基準以下か、極めて低い汚染度であるにもかかわらず、現状では卸売、小売段階で原産地表示しかないために敬遠されて売れ残ったり、安値で投げ売りを余儀なくされる風評被害を受けている実態を見るとき、きめ細かい食品の放射線測定を業者自らが行い表示することは、被災地の食品産業の衰退を食い止める上で不可欠の要件と言えます。

 チェルノブイリ原発事故以来、ベラルーシなど周辺地域では、全国の公設市場に放射線測定機が設置してあり、その場で測定して安全を確認したものしかその市場で販売してはならないことになっています。また、測定機は一般市民にも開放されており、測定証書のない食品を持ち込んで低料金で測定できる体制が取られています。近い将来、日本でも同様の体制を取らねばならないことは眼に見えています。

 言うまでもなく、自治体や業者が放射線測定体制を整備するには多額の費用を要します。こうした測定は、貴社の原発事故がなければ必要なかったものである以上、その費用は当然貴社が賠償すべきものです。しかし、残念ながら、現実には賠償の請求段階から多大の困難が伴っているのが実態です。

 これまでに日本消費者連盟に持ち込まれた相談や調査で、たとえば、同じ地域の生活協同組合でも食品関連事業の流通業者として営業損害や検査費用が認められている生協がある一方で、生協をサービス業であるとして賠償の対象でないとしていることがわかりました。サービス業の場合は、風評被害対象は原則、福島県に事業所等があるものに限定されています。また、小売業も同様にサービス業であるとして賠償対象ではないとされています。

 確かに、原子力損害賠償紛争審査会の「中間指針」では、風評被害の賠償対象が「賠償を受けやすくする」趣旨から類型化されていますが、中間指針の趣旨はそれ以外の賠償請求を否定するものではなく、貴社自身も、「公正かつ迅速な賠償を行う観点から、中間指針でしめされた賠償項目ごとに賠償基準を策定し、それに基いて賠償を行うとしています。そして、指針で示されていない損害項目も原賠法に基き、相当因果関係の認められる損害については、指針及び東電の賠償基準等を踏まえ、本賠償の協議をする」とされています。

 貴社に対する賠償請求については、当初より、賠償を補償というなど、加害者意識が全く感じられないうえに、請求書類や添付書類は複雑であり、加害者が賠償のルールを決めていることに対する非難があったことは言うまでもありません。

 直接請求ではらちがあかず、原子力損害賠償紛争解決センターを利用することを選択しても、仲介委員が示した和解案をそのまま受け入れず、被災者にとって重要な条項である慰謝料の総額を拒否し、同センターがあえて設定しなかった和解時における仮払い補償金の精算条項の明記を求めるなど、11年10月28日に原子力損害賠償支援機構と共同で申請し、その後政府により認定された「特別事業計画」の中で掲げた「被害者の方々への『5つのお約束』」(「被害者の方々の立場に立ち、紛争処理の迅速化に積極的に貢献するため、原子力損害賠償紛争審査会において提示される和解案については、東電として、これを尊重する」)にも反するものです。現状、和解成立率は4%といわれており、政府や国民に対する約束を守っておらず、中間指針すら無視するものと言わざるを得ません。

1. 賠償請求への対応について以下の項目を要請します:

(1)  他人の生命・財産を不法に侵害した加害者としての自覚を持ち、中間指針に添って賠償支援に誠実に取り組むこと。

(2)  貴社の賠償窓口を全国に増設し、個々の被害者ごとに担当者を決め、被害者の元に出向いて詳しい説明を行うとともに、書類作成の支援を行うこと。

(3)  加害者である貴社が被害者に賠償請求の様式を指定し、賠償の可否を判定する現在の在り方は、あくまで賠償を迅速に行うための一時的な次善の策であり、本来賠償請求は被害者主体に行い、加害者である貴社が柔軟に対応すべきものです。被害者に対してそのことを明示的に説明するとともに、被害者独自の請求様式(提出場所、提出書類の書式、必要書類等)にも対応する旨を広く表明すること。

(4)  原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解に積極的に応じること。

2. 風評被害(*)について、以下を要請します:

(1)  賠償の対象者を限定することなく、生活協同組合、小売店ほか食品関連の事業者すべてを対象とすること。

(2)  賠償対象地域を限定しないことす。

(3)  検査費用だけでなく、営業損害についても複雑な計算方法(貢献利益率など)を改め、積極的に賠償請求に応じること。

(理由)

 中間指針で類型化された、「農林漁業・食品産業の風評被害の類型以外でも、農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業、農林水産物・食品の流通業並びにその他の食品産業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害は、個々の事例又は類型毎に、取引価格及び取引数量の動向、具体的な買い控え等の発生状況等を検証し、当該産品等の特徴(生産・流通の実態を含む。)、その産地等の特徴(例えばその所在地及び本件事故発生地からの距離)、放射性物質の検査計画及び検査結果、政府等による出荷制限指示(県による出荷自粛要請を含む。以下同じ。)の内容、当該産品等の生産・製造に用いられる資材の汚染状況等を考慮して、消費者又は取引先が、当該産品等について、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合には、本件事故との相当因果関係が認められ、賠償の対象となる。」としています。賠償の対象や地域を限定した類型化はあくまでも例示として、そのほかの地域についても風評被害賠償を認めることが中間指針の趣旨であると認められること。また、賠償が窓口により対応がばらばらであることは不公平かつ不合理であること。貢献利益率の複雑な計算が営業損失の請求を困難にしていること。

以上

連絡先:特定非営利活動法人 日本消費者連盟 古賀
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1-9-19 アーバンヒルズ早稲田207
電話: 03-5155-4765 / FAX: 03-5155-4767
email: office.j@nishoren.org


(*)風評被害について:風評被害とは一般的には噂などによって経済的損害が発生した場合をいいます。福島原発事故による被害は、風評被害という言葉が使言われていますが、この使い方は意図的な政治背景によるものであり、実害そのものであることを隠ぺいするものであると考えます。風評被害は「正しい情報を伝えないことによって起きる」ものです。情報が不完全な場合には人間の性質上自分の身の安全を守ろうとする際余計に不安になって慎重な行動を取るようになりますが、これは政府の姿勢にも表れています。賠償法の中で風評被害としてされた項目に従った申し入れをしていますが、本来的には風評被害としてこの項目をたてることには根本的な疑問があります。

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