日本消費者連盟
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電気事業法改正案について 再生可能エネルギーを普及させ、電力システム改革を確実に進めるために

経済産業省は、2013年1月28日召集の今通常国会に電気事業法改正案を提出する方針を明らかにし、法案作成を進めています。これについて、日本消費者連盟は、他の市民団体と共同で、今後の「電力システム改革」に求められる要点をまとめた要請書を発表しました。

電力システム改革を進めるためには、発送電の分離は必須です。自民、公明両党は核心である発送電分離に必要な法案を、自民党の経済産業部会などの議論から「15年の提出を目指す」に後退させられ、早くも日本のエネルギー改革には赤信号が出ています。

脱原発に向けて分散型・自然エネルギーを普及させ、地域独占体制や総括原価方式による料金規制が解消され、新規事業者が発電に参入し、消費者が電力を自給し、選択できるためには、電力システムのしくみそのものの早急な改革が必要です。日消連では、市民の立場からエネルギー問題を考える団体(1)とともに、3月19日に「電気事業法改正案に関する市民意見書「電力システム改革を確実に進めるために」(市民意見書:下記参照)を提出しました(詳細は消費者リポート参照)。その骨子は次の通りです。

制度改革の方向性と電事法改正

市民意見書では、まず、東日本大震災以来の経験から、エネルギー政策として、市民や地方自治体がエネルギーの供給から消費のすべてに関与できるような新しい仕組みとすることを目指しています。脱原発・脱化石燃料とCO2削減という市民が主張してきたことを実現させるためには、まず、再生可能エネルギー優先の原則を宣言し、エネルギーの供給と消費をうまく組み合わせるための仕組みや、電気・ガス・オイルといったエネルギーの種別による垣根を取り払い、熱エネルギー(温水供給等)を有効活用していく仕組みを実現しなければなりません。低廉な価格実現も、原発普及開発で無視されてきた、外部費用を取り込んだ真の社会的コストで競争するものであることが必要です。

再生エネルギー優先の原則を

2012年6月から、固定価格での買い取り制度が始まり、再生可能エネルギーへの第一歩となりました。今回の改正では、再生エネルギーと省エネを優先させ、将来性ある、環境適合する経済的なエネルギー供給を可能とすることを目的とするべきですが、報告書や改革方針案には、「再生エネルギーの導入等を進める」としながら、再生エネルギーを優先するということが明言されていません。

それでは、政府方針案のめざすところはどこにあるのでしょうか。方針案では、低廉で安定的な電力供給が国民生活を支える基盤であるとし、これまでのエネルギー政策をゼロベースで見直し、責任あるエネルギー政策を構築の一環として、再生エネルギーの導入等を進める電力システム改革に政府を挙げて取り組むとしています。その際、電気事業に携わる者の現場力や技術・人材の蓄積を活かすとしています。

改革の目的としては①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大が掲げられています。そして、これらの目的を実現するために、3つの柱として①広域系統運用の拡大、②小売り及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一側の確保を柱として、大胆な改革を現実的なスケジュールの下で行うとしています。

制度改革の3つの柱は実現されるか?

1. 広域系統運用の拡大

広域運用機関は、エリアを超えて全国的に需給調整することを可能とすることを目的とする機関で、電力需要のひっ迫や出力変動のある再生エネルギーの拡大に対応するために国の監督のもとに系統利用者情報を一元管理することで、安定供給を強化し電力コストを低減するものとされています。

変動型再生可能エネルギー電力を大量導入していく中で、全国規模で安い電源から順に使うメリットオーダーを進め、電気料金のコストを削減し、電気料金を抑制するためには、中立・公正な広域系統運用機関の設立が必要ですが、広域系統運用機関はエリアごとの系統機関の運用に優先させるべきです。系統情報の公開と接続受付は、エリアごとに需給調整を行うのではなく、地域間連系線の利用に際しても再エネを最優先とする優先給電の原則をとり、広域運用することが必要だからです。

2. 小売り及び発電の全面自由化

小売全面自由化は、一般家庭が電気を選ぶために不可欠な仕組みです。16年を目途に実行するとしていますが、方針を明確にして前倒しすべきです。改革方針案では一般事業者の料金規制は、小売業への全面自由化後も、経過措置として継続するとしており、自由化の時期の不明確なこともあり、自由な競争の足かせにならないか疑問があります。

発電の全面自由化(卸し規制の撤廃)や卸電力取引所における電力引取量を増加させる取り組みも追加検討対象とされており、自由化への姿勢があいまいにされています。

市民案は、現状で圧倒的市場シェアを持つ一般電気事業者に、一定の電源を卸市場へ卸すことを義務付け、卸市場の活性化をはかるために、発電所仮想的売却制度(所有権は移さずに、発電設備使用権を他社に売却する制度)の導入を提言しています。

3. 法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保

地域独占で発電・送配電・小売を一括所有する形態から、送配電部門を分離することが発送電分離であるとされています。改革方針では、一般電気事業者の送配電部門を別会社とするが、会社間での資本関係は排除されない(法的分離)が前提とされています。また、「送配電設備の開発・保守と運用の一体性が確保でき、安定的保安、送配電部門への投資、発電事業。小売り事業の経営の自由度の面でも優位性がある。」とされており、既存の一般電気事業者の独占体制を維持するかのように受け取れます。

そもそも、発送電分離は、①多様な発電事業者と小売事業者が自由に競争できるようにすること。②再生可能エネルギーを含む多様な発電所が、公平に送配電部門に接続できるようにすること③既存の電力事業者の利害にとらわれることなく、送配電網の拡充を計画的に進めて行くこと等のために必須の手段であり、最終的には所有権分離まで踏み込むべきものです。ドイツの例をみても託送料金については、総括原価方式による削減圧力にも限界があり、所有権分離が実現しないかぎり、高すぎる託送料金が参入障壁となり自由化が進まなかったとされています

また、公共インフラである送配電部門の絶対的中立性・公平性を確保するためには、新しく強力な独立規制機関を創設し、改革の工程ごとの監視機能をもたせていく必要があります。特に、不当な接続拒否をさせないため、新規の発電事業者の接続申し込みを拒否することがないよう、一般電気事業者に対する、不当な給電制限に対する監視や指導が必要です。具体的には、託送料金にはこれまでにも問題が指摘されてきており、実質的な新規電気事業者の参入を阻む要因となっています。透明性を高めるためにも、託送料金の徹底的な算定根拠の開示などを義務付け、料金抑制に向けた規制の強化と監視が必要です。

再生可能エネルギーの急速な拡大は、安全なエネルギー・エネルギー安全保障・温暖化防止のいずれの観点からも急務です。市民が主体的に脱原発、再生エネルギーの普及により、未来の子どもたちにこれ以上負の遺産を残さないように、日消連では今後とも他団体と連携して電力システム改革問題に取り組んでいきます。

(共同代表 古賀 真子)

(1) FoE Japan、環境エネルギー政策研究所、気候ネットワーク、グリーンピース・ジャパン、WWFジャパン、発送電分離プロジェクト。


電気事業法改正案について市民意見書

2013年3月19日

FoE Japan
環境エネルギー政策研究所
気候ネットワーク
グリーンピース・ジャパン
WWFジャパン
日本消費者連盟
発送電分離プロジェクト

東日本大震災以来の経験から、これからのエネルギー政策は、市民や地方自治体がエネルギー政策の決定に関与でき、エネルギーの供給から消費のすべてに関わっていけるような新しい仕組みが求められている。エネルギーの供給と消費をうまく組み合わせるための仕組みや、電気・ガス・オイルといったエネルギーの種別による垣根を取り払い、熱エネルギー(温水供給等)を有効活用していく仕組みなどが必要である。

このような基本認識に立ち、これからの「電力システム改革」に必要な法制度について以下に示す。

[1] 電力に限定されない新しい「エネルギー事業法」の制定が必要である

 現在の電気事業法は、電力の安定供給のために作られた法律であり、必ずしもこれからの「電力システム改革」にはなじまない。本来は電力に限定されない新しい「エネルギー事業法」を制定し、下記のような項目をその目的として定めることが必要である。

  1. 持続可能性。特に省エネ促進と再生可能エネルギーへの転換を図るものでなければならない。
  2. 環境との調和。脱原発・脱化石燃料を実現するものでなければならない。
  3. 健全な市場に立脚。競争原理を阻害する要因は取り除かねばならない。外部費用を取り込んだ真の社会的コストで競争するものでなければならない。
  4. 市民の参加と選択を保障する。市民がエネルギー政策の決定に関わり、自由にエネルギー源、特に再生可能エネルギーを選べなければならない。

以上、エネルギーシフトの原則に立ち、今回の電気事業法の改正にあたって、欠かせないと考える点について示す。

[2] 今回の電気事業法改正にあたって

 2013年2月に出された電力システム専門委員会報告書は、電力自由化先進国に比べて周回遅れの日本の電力システムを是正する方針を示したものと考える。同時に、急務である再生可能エネルギーの拡大に必要な視点が薄い。電気事業法の改正にあたって、再生可能エネルギーの普及のために以下の4点を提案したい。

 1) 広域系統運用機関設立の際に重要なポイント

 広域運用機関とは、エリアを超えて全国的に需給調整することを可能とすることを目的とするものであるが、広域機関の運用は、エリアごとの系統機関の運用に優先することを定めるべきである。

1. 需給ひっ迫時など緊急時の利用のみならず、平常時からの広域運用を前提とすることが重要である
【理由1】再生エネルギーの大量導入が可能となる

変動型再生可能エネルギー電力を大量導入していくには、広域に系統運用することが欠かせない。たとえば北海道や東北の風力発電の変動を、大規模消費地である東京で吸収することによって、高価な蓄電池などに頼らずに早い段階で再生エネルギーを大量導入することができる。

【理由2】広域経済運用は電気料金の抑制に資する

 平常時から広域的需給調整が可能となると、全国規模で安い電源から順に使うメリットオーダーが進むため、電気料金のコスト削減効果がある。また再生エネルギー電力の大量導入は電気料金の抑制につながり、将来的には予備力とされる発電所を減らせることもコストダウンとなる。

2. 新規電源の接続受付をするにあたって、再生可能エネルギー電源の系統接続の拒否を防止し、運用時には優先給電を義務とすること
【理由1】再生エネルギーの系統接続の中立性・公平性を確保するため

現状のFITでは一般電気事業者が再生エネルギーの接続を拒否する権利を持ち、その判断基準は明確でない。系統情報の公開と接続受付は、中立性を厳密に確保した広域系統運用機関が行い、接続義務を徹底しなければならない

【理由2】変動型の再エネを最大限に活かすためには優先給電の原則が必要

変動型の再エネ電源(風力や太陽光など)の優先給電を徹底し、エリアごとに需給調整を行うのではなく、地域間連系線の利用に際しても再エネを最優先とし、広域運用すること。

2) 小売全面自由化に重要なポイント

 小売全面自由化は、一般家庭が電気を選ぶために不可欠な仕組みである。今後の政治的判断で後退させられることのないよう、今回の電気事業法改正で、実現の時期を2015年までと明記すべきである。

1. ピークカットや適切な需要の抑制を促す料金メニュー(デマンドレスポンス)の導入を義務付ける
【理由】消費者自身が電気の使い方を選べ、電気料金の抑制にもなる

需要があるとして発電設備を無制限に増やしてきた今までとは異なり、今後は消費者の創意工夫を引き出し、自覚的、効率的な需給調整を行っていくことが欠かせない。消費者に電力消費を抑制するインセンティブが発生するような料金制度を柔軟に行うことができるようにする必要がある。

2. 一定の電源を一般電気事業者が市場へ卸すことを義務付けること
【理由】卸市場を活性化することが必要である

多数の小売事業者が参入し一般家庭が電気を実質的に選べるようにするためには、卸市場の活性化が欠かせない。現状で圧倒的市場シェアを持つ一般電気事業者に、一定の電源を卸市場へ卸すことを義務付け、卸市場の活性化をはかるべきである。たとえば発電所仮想的売却制度(所有権は移さずに、発電設備使用権を他社に売却する制度)の導入が考えられる。

3) 発送電分離について重要なポイント

 発送電分離により、今までの一般電気事業者のように、地域独占で発電・送配電・小売を一括所有する形態から、送配電部門を分離することになる。そのためには、公共インフラである送配電部門の絶対的中立性・公平性を確保しなければならない。

発送電分離の目的は、主に以下の二つである。

  1. 多様な発電事業者と小売事業者が自由に競争できるようにすること。
  2. 再生可能エネルギーを含む多様な発電所が、公平に送配電部門に接続できるようにすること
  3. 既存の電力事業者の利害にとらわれることなく、送配電網の拡充を計画的に進めて行くこと。

 上記の目的を達成するためには、最終的には所有権分離まで踏み込むべきである。

1. 少なくとも法的分離については、その実現の時期を2017年までとし、今回の改正電気事業法の中に明記するべきである。
 【理由】今後の政治的駆け引きで改革が後退する可能性をなくすため、少なくとも法的分離を行うことを今回の電気事業法の改正に期限付きで明記すべきである。
4) 新しく強力な規制機関を独立して創設すること

電力システム改革を進めるには、多様な発電所の参入と小売りの自由化とともに、送配電部門の高い独立性と透明性を確保することが重要である。そのためには、新しく強力な独立規制機関を創設し、改革の工程ごとの監視機能をもたせていくことが欠かせない。

1. 送配電部門を所有する一般電気事業者の接続拒否の監視や指導
【理由】不当な接続拒否をさせないため

新規の発電事業者の接続申し込みを拒否する際には、一般電気事業者に説明義務が課されてはいるが、不当な理由で接続を遅らせたり、拒否することのないように監視・指導する必要がある。不当な給電制限に対する監視や指導が必要である。

2. 託送料金の算定根拠を透明化し抑制すること
【理由】小売分野での実質的な競争を促進させるため

託送料金にはこれまでにも問題が指摘されてきており、実質的な新規電気事業者の参入を阻む要因となってきた。透明性を高めるためにも、託送料金の徹底的な算定根拠の開示などを義務付け、料金抑制に向けた規制の強化と監視が急務である。

上記に示したのは必要な規制や監視業務のごく一部分にすぎず、卸電力市場における取引の監視など業務は多岐にわたる。改革を滞りなく進めるためにも、独立した規制機関を創設するべきである。

規制機関は、経済産業省から権限行使について指示等うける立場にない独立した組織である必要がある。具体的には、公正取引委員会と同様に合議制の機関として、構成員となる委員の任命は国会(両議院)の同意を要件とすべきである。透明かつ公平な人事を確保し、特に利益相反が疑われる電力事業者の関係者との兼務等がなされないよう、厳に監視する必要がある。

また、託送料金の決定については別に審議会を設けるなど、市民の意見を代弁する者を参画させるとともに、市民の利益が適切に反映されるよう、公聴会の開催を義務付け、市民が意見表明できるよう、十分な情報提供がなされることが求められる。

[3] 再生可能エネルギーの速やかな拡大のために必要な他の施策

 固定価格買取制度や、今回の電気事業法の改正は、安全で安心なエネルギー需給体制への重要なステップである。しかし、日本としての長期目標や将来のエネルギー計画が明らかでないままでは、効果が半減する。2050年に向けた計画的なビジョンを持ち、その通過点として、2020年の目標と施策を整えていく必要がある。将来のエネルギービジョンは、一刻を争う地球温暖化対策との調和をはかるものでなくてはならない。そのためには少なくとも以下のような視点が欠かせない。

  1. エネルギー総需要そのものを抑制する明確な目標と施策
  2. 野心的な再生可能エネルギー導入目標
  3. 野心的な温室効果ガス排出削減目標

エネルギーに関する計画策定ともに、上記に関する野心的な条項を盛り込んだ温暖化に関する法成立が早急に必要である。

再生可能エネルギーの急速な拡大は、安全なエネルギー・エネルギー安全保障・温暖化防止のいずれの観点からも急務である中、明確に目標を定めて、あらゆる政策でその視点を入れていくことが、今最も重要である。

お問い合わせ先:

環境エネルギー政策研究所:担当 船津 寛和
〒164-0001 東京都中野区中野4-7-3
Tel: 03-5942-8937
Email: info01@isep.or.jp

WWFジャパン:担当 小西 雅子
〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル6階
Tel: 03-3769-3509
Email: climatechange@wwf.or.jp

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