ドアが開いた瞬間、嫌な予感がしました。暖かい空気とともに花のような香りが漂っていたからです。年末年始を実家で過ごし、東京に戻る新幹線の中。予約した自分の席に近づくにつれ、予感は確信に変わりました。かすかだった匂いが強烈なニオイとなって私の鼻を突いてきたのです。
何とニオイの元は私の隣席の女性でした。席に着いた途端、「これはキツイ」とマスクをしたのですが、薄い布1枚で防ぎ切れるものではありません。香水を全身にまとった彼女が動くたび、彼女の横の通路を人が通るたび、人工的な花のニオイに頭がクラクラしました。
暖房のせいもあってボーっとする頭に浮かんできたのは香害で苦しんでいる人たちのことでした。日本消費者連盟が昨年7月と8月に期間限定で行った「香害110番」には、柔軟剤や制汗剤等の人工的な香りに日常生活を奪われてしまった悲痛な声がたくさん寄せられました(香害特集は「消費者リポート」1599号と1602号、香害110番報告は同1600号)。隣の席からの強烈な香水に「私も被害者になるのでは」と恐ろしくなったのです。
日消連は昨年11月、機内でアロマサービスを始めたANA(全日空)に、サービスの即刻中止を求める質問状を出しました。飛行機の場合は、具合が悪くなっても、降りることも窓を開けることもできません。密閉空間という意味では、新幹線も同様です。Uターンラッシュが一段落したとはいえ、空いた席を探し大きな荷物を持って移動するのは簡単ではありません。
密室での約1時間半は拷問に近いものでした。
(纐纈美千世)