日本消費者連盟
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飲んではいけない!ビタミン剤

【海外消費者情報】

ビタミン剤を飲むとがんや心疾患になりやすくなる?

ビタミンは、人間の代謝作用を助ける重要な栄養素。ビタミンの摂取が不足すると欠乏症を起こすことがありますが、ほとんどのビタミンは体内で合成されないため、食品などの形で外から摂取する必要があります。ビタミンBには疲労回復効果、ビタミンCやビタミンEには優れた抗酸化作用があり、老化やがんの原因になる活性酸素を中和することが知られています。人間が健康を維持するうえで必須の栄養素であるビタミンですが、注意したいのが「摂取する量」です。専門家によると、必要な摂取量は日常の食生活で満たすことができるとしていますが、ビタミン剤などのサプリメントを販売している企業は、食品からの摂取では不十分と宣伝しています。

飲んではいけない!ビタミン剤こんな研究結果があります。米国国立がん研究所が2007年に行った調査(被験者11,000名)で、総合ビタミン剤を摂取した男性は、摂取しなかった男性に比べて、進行性の前立腺がんによる死亡率が倍増していたことが判明。その翌年に行われた抗酸化物質サプリメントを摂取した場合としなかった場合を比較する調査(被験者230,000名超)では、ビタミンががんと心疾患の発症リスクを高めることがわかりました。また、ミネソタ大学の研究者が2011年に行なった調査(被験者39,000名超)では、総合ビタミン剤やマグネシウム、亜鉛、銅、鉄のサプリメントを摂取した年配女性は、摂取しなかった女性に比べて、死亡率が高いことがあきらかになりました。この結果を受けて、調査に当たった研究者は「これまでの結果から言えるのは、ふつうの人がサプリメントを飲む理由はどこにも見当たらない、ということです」と語っています。では、人間が健康を維持するために重要な栄養素を含むサプリメントが、逆に健康に悪影響を与えてしまうのはなぜでしょうか?

活性酸素は悪者?

人間の体内では、食べ物が酸素と化合してエネルギーに変換される過程で「活性酸素」が発生します。活性酸素は、DNAや細胞膜、動脈の内膜を傷つけることがあり、老化やがん、心疾患をもたらすことが知られています。この活性酸素を中和するために、人間の体内では抗酸化物質が作られます。抗酸化物質は、野菜や果物にも含まれており、それらをたくさん食べる人は、がんや心疾患の発症率が低いことが研究で証明されています。その一方で、活性酸素には体内に侵入した細菌を殺したり、新しいがん細胞を排除する役割もあります。つまり、ビタミン剤などで過剰に抗酸化物質を摂取すると、体内での活性酸素の生成と破壊のバランスが崩れて免疫システムが不自然な状態となり、有害な侵入者を殺す能力が衰えてしまうのです。

このように抗酸化物質の大量摂取が有害となり得ることは科学的にも証明されているにもかかわらず、依然として抗酸化物質サプリメントは売れ続けています。米国でのサプリメントの年間売上高は280億ドル(約2兆7000億円。2010年度)にのぼり、日本での年間売上高も2002年以降、1兆円以上を続けています。サプリメント業界は、「医薬品は人工的で危ない感じがするけど、サプリメントやハーブは自然のものだから安心」といったイメージを消費者の心理に植え付けることに成功しました。でも、自然のものだから安全とは限りません。たとえば、アメリカでは1992年に痩身作用のあるウマノスズクサが入ったサプリメントを飲んだ約100名に腎機能障害が発症(日本での被害報告は4件)。このうち少なくとも70名に腎臓移植や腎臓透析が必要となり、後に多くの人が膀胱がんになりました。日本では、2002年頃から、主に個人輸入された中国製ダイエット健康食品による健康被害が相次いで報告されました。肝機能障害や甲状腺障害などを患った798名の被害者のうち、4名が死亡しています(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0719-3.html)。ハーブ療法でも、ペニーロイヤルミントが含まれたお茶を飲んだ小児とカプサイシンが入ったうっ血除去薬を飲んだ小児が死亡した例があります。

サプリメント産業は無法地帯?

飲んではいけない!ビタミン剤米国では、1994年に「栄養補助食品健康教育法」が制定され、それまでに販売実績のない成分を含有する製品については、製造販売業者が安全性等を示す文書を米国連邦食品医薬局(FDA)に提出することが求められるようになりました。しかし、そうした文書が提出された例は、施行後に販売された51,000種類の新製品中170種にすぎません。つまり、人体にどのような影響を及ぼすかわからない、安全性が科学的にあきらかでない成分を含んだサプリメントが市場に多く出回っているのです。欧州では、サプリメントに対する規制は、欧州食品安全機関(EFSA)が行なっていますが、その基準は相当に緩いものです。日本では、サプリメントは一般食品として扱われており、国による安全性や有効性の審査は行なわれません。また、インターネット上には、さまざまなサプリメントが大量に流通していますが、偽物である場合や日本では未承認の医薬品が含まれている場合があるなど、安全性には特に注意する必要があります。

サプリメントは、身体に必要な栄養成分や体質改善に効果があるとされる成分を摂取するには、とても手軽で便利な方法です。しかし、すでに見たように、野菜や果物などをたくさん食べる人はがんや心疾患の発症率が低いことはわかっている一方で、抗酸化物質サプリメントの大量摂取は、がんや心疾患の発症リスクを高めることが科学的に証明されています。また、ダイエットなどの体質改善系のサプリメントについては、特に個人輸入品による深刻な健康被害が後を絶ちません。テレビや新聞、インターネットなどに蔓延する派手な広告や口コミなどを鵜呑みにせず、自分や大切な人の身体にとって、本当にサプリメントの摂取が必要なのかを考える必要があるのではないでしょうか。

参照元:Vitamins: stop taking the pills, The Guardian