日本消費者連盟
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東電の電気料金上げ再申請に対して枝野大臣に申し入れ

東電の値上げ申請が、8.47%で政治決着したことに対して、日本消費者連盟では枝野大臣あてに、さらなる値上げ幅圧縮を東電に求めるよう要請書を提出しました。
当初は出来レースではないかといわれていた値上げ審査ですが、国民の声の募集や公聴会が開かれ、消費者庁、消費者委員会、消費者団体が連携して公共料金の決め方について公開性の要求や意見表明をした点では、今後の公共料金の決定についての1つのモデルケースとなると考えられます。当初の値上げ幅からは1.81%の圧縮となりましたが、まだまだ圧縮の余地はあります。今まで経済産業省一辺倒であった電力会社の情報がある程度国民に公開されたことは一定の評価ができます。しかし、この圧縮幅は消費者として満足できる結果とはいえません。東電はこの数字をもとに再申請を行いますが、東電自身が国民の声を受け止め自主的に値上げ幅を圧縮するよう、今後とも働きかけていきます。


                       12年7月20日

経済産業大臣
枝野 幸男 様

             定非営利活動法人 日本消費者連盟
                    共同代表 天笠啓祐
                         古賀真子
                         真下俊樹
                         山浦康明

東京電力の電気料金値上げにつき、東電に対して、
更なる値上げ幅の圧縮を求めるよう指導することを求める要請文
冠省 
6月19日 藤村修官房長官と枝野幸男経済産業相、松原仁消費者担当相の3閣僚は東京電力(東電)の家庭向け電気料金の値上げ幅を8.47%とする合意したと報道されました。
東電は10.28%の値上げを申請していましたが、査定方針を検討していた経済産業省の電気料金審査専門委員会(委員会)では、値上げ幅は原価査定が500億円程度削減できるとして1%程度下げられ、9%台前半との報告書をだしました。
報告を受けた貴職が、人件費を圧縮して値上げを8%台にすることを提案したのに対して、消費者庁や消費者団体との意見交換を踏まえて、松原大臣は、社員年収の削減幅を2割から3割に拡大し、福島第1原発5、6号機や福島第2原発の減価償却費を原価から外し、5~6%台まで値上げ幅を圧縮するよう強く要求しました。
合意内容は、人件費などの削減を拡大し、管理職の年収減額を現在の25%から30%以上に拡大。福利厚生費も圧縮し、競争入札の拡大で資材などの調達費用の抑制を図るとする一方、一般社員の人件費は20%減の現行水準を維持。東電福島第1原発1~4号機の安定化費用や賠償対応に伴う経費、第1原発5~6号機と第2原発1~4号機の減価償却費はいずれも計上が認められてしまいました。
これまで、資源エネルギー庁内での「専門家」のみの審議会で決められてきた公共料金に消費者庁や消費者の目線が入れられたことは評価に値します。今後同様の値上げ問題に対して、消費者庁や消費者委員会、消費者団体の連携がますます必要となっていきます。
しかし、今回、最終的に、東電への公的資本注入や社債償還に影響が出かねないとして、値上げ幅圧縮に難色を示した貴職に押し切られた形になったことは残念です。
 電気事業法に基づく総括原価方式は、発電・送電・電力販売にかかわるすべての費用を「総括原価」としてコストに反映させ、さらに一定の報酬率を上乗せした金額が、電気の販売収入に等しくなるように電気料金を決める算定方法です。
 電力会社を経営するすべての費用をコストに転嫁することができる上に、一定の利益率まで保証されている、決して赤字にならないシステムです。普通の民間企業ならば、利益を生み出すために必死でコストを削減する努力をするはずですが、電力会社はどんなにコストがかかろうと、法律によってあらかじめ利益まで保証されているのです。原価算入はいわばブラックボックスなのです。目に見えやすい人件費などがコスト削減のやり玉に挙げられますが、むしろ、事業報酬や燃料費の非競争入札の改善で大幅なコストダウンが可能であり、値上げが不要となることに目を向けるべきです。
 今回の値上げは、未曽有の事故を起こした東電に対してすでに莫大な国家予算をつぎ込んだ上に、さらに国民の負担を求めるというもの。矛盾だらけの総括原価方式を前提としても、なお「真に必要なもののみを原価算定に入れる」ための査定であったはずです。このことを前提に、貴職に対しまして、再度以下の点に考慮して、東電に対して値上げの圧縮をするよう求めていただくことを要請します。

特に原価算定に入れるべきではない5つの費用
1 人件費
委員会の結論は、人件費3488億円はおおむね妥当であるとして、法定厚生費についてのみ一般企業並みに10%の雇用主負担を減らすというものです。
委員会は、「公的支援を受けている会社であることに注目するマスコミの論調は間違いであり、比較対象のJALはそもそも賃金が高すぎたこと、株主と債権者の責任が徹底的に追及されるべきであったものであり、東電とは異なる。また、送電義務がある以上、公的整理と異なり、東電は優秀な人が去ってはいけないので人件費カットを求める消費者庁の考えはおかしい」という意見で、人件費は誰にでも適用されるもので公的整理と切り離して考えるべきだと東電申請の人件費を妥当としました。消費者庁のチェックポイントと消費者委員会はこれに疑問を呈し、一部3割削減が認められました。
2 賠償関連費用(5141億円)
 福島第一原発の1から4号機については特別損失としているのに、廃炉費のほかに安定化費用(487億円)や機能していない賠償対象費用278億円を経費として原価に算入することは理解できません。
3 減価償却費用(6281億円)
 福島第一原発の5、6号機と福島第二原発の減価償却費(414億円)は稼働予定のないものであり、原価算定に入れるべきではありません。再稼働問題が議論される中でも「福島では再稼働には自治体が同意することはない」と首長が明言している状況で、稼働しない資産を費用として認めることは租税法上も問題です。
4 購入電力費(7943億円)
 矛盾の最たるものです。東北電力と日本原子力電源から、稼働見込みのないものに毎年1003億円を支払っているとしてマスコミでも報道されています。契約内容も情報公開されないまま委員会では原価算入が認められており、納得できません。
 人件費以外に賠償関連費用、稼働しない資産の減価償却費、購入電力費を算定からはずすだけでも、あと3%の圧縮ができます。
5 事業報酬(2815億円)
事業報酬とは、安定供給に必要な設備投資などを行なうために必要な「資金調達コスト」のことで、銀行からの借り入れや社債に対する支払利息、発行株式に対する配当に相当するものとされています。この事業報酬は、電気事業の運営に必要な資産と運転資本の合計(レートベース)に、調達金利相当(事業報酬率)を乗じて算出します。発電所などへの投資を行なうとレートベースが増加し、事業報酬が増えます。
消費者庁や消費者団体からは、計算の指数を変えることが提言されましたが、委員会では事業報酬の算定は震災以降の9電力の平均の指数が採用されました。
 この他にも燃料費や調達費の契約見直しの可能性や資産売却についての議論もつくされておらず、総括原価方式で値上げ料金を算出する方としても、まだまだ見直す余地は大いにあります。
日消連では引き続き、「原発はいらない、原発を維持するための電気料金値上げは許さない」との声をあげていきます。更なる値上げ幅の削減を求め、総括原価方式の見直し(電気事業法の改正)、情報の公開、公共料金算定への消費者(団体)の参画を求めていきます。また、今後節電のための具体的方法も伝え、原発のないエネルギー社会の実現を求めていくことを申し添えます。
以上

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