風評被害とは何でしょうか。東京電力や政府が使う風評被害は、「根も葉もない噂」というニュアンスが混じっています。福島原発事故により、出荷できない作物が出てきたのは、「根も葉もある事実だ」と福島の農家は言います。消費者が汚染地の農作物を避けようとするのは、事故以降に事実を隠し、嘘をつき、今でも事故を過小評価しようとする政府を信用できないからです。2度とだまされないぞと身構えているのです。
一方で、福島の作物を避けている消費者は、福島の作物の安全性について、どれだけの事実を知っているのでしょうか。安全と言われる数値が信用できないから、とりあえず避けておく。その段階に踏みとどまっているのかもしれません。自分で確かな情報源に当たらずに、ただ避けているだけなら、それは本当の意味で「風評被害」を生んでいると言えるのかもしれません。
ここに書いたことは、東京でも比較的高線量地域に住みながら、3人の子どもを育てている私自身の姿です。事故直後に関西に子どもを一時的に避難させ、その後、空気や水、食材に気を遣いながら、東京で暮らしてきた生活者の思い、悩み、気づきです。
放射能にここからは安全だというはないというのが今の認識です。安全値はないけれど、ここまでなら目をつむるというがまん値は、家族や地域の人と話し合い、自分なりの数値を持っていいのだと思います。決して政府や東電に押し付けられるものではありません。それは福島だけでなく、日本全体に行き渡った放射能と付き合わざるを得ない私たちの現実です。
私たちは、農家と消費者、福島と福島以外、食べる食べない、住む住まないで、これ以上分断されたくありません。被害者同士の確執やすれ違いは、本当の加害者である東電と政府の罪を許すことにつながります。思考停止から一歩踏み出すために、福島の農業のいまを取材しました。
編集委員 杉浦陽子
福島農業の今|消費者リポート3月号特集記事
- 消費者リポート 1595号 2017.3.20
- 2017年3月号「作物を作っての農民、 自分が耕した健康な土あってこそ」