4月30日、NHKBS1『国際報道2020』で『南アフリカ・学校まで略奪~新型コロナで社会崩壊寸前』が放送されました。南アフリカ共和国最大の都市ヨハネスブルクから、NHKの記者が、アフリカのなかで新型コロナウイルス感染症の症例数が最多(当時)の同国を取材し、3月27日に開始されロックダウンの影響と分析をレポートした内容でした。番組では、失業保険の受け取りに並ぶ長打の列、「ロックダウンにより経済的に困窮した人々が商店を襲っている」という解説で食料を略奪している映像、「学校が略奪にあい、証拠を消すために放火された」として焼けた教科書などが映し出されました。現地の記者は、このような「社会崩壊寸前」の状況から、感染が収束していないにも関わらず南アフリカ政府はギブアップしてロックダウンを解除した、貧富の差を放置してきたつけがまわっている、と報告しました。
しかし放送すぐあとより、この内容に対して南アフリカに長く住む日本の方々から抗議の声があがりました。内容には事実の歪曲が含まれ、政府の政策やそれに対する人々の反応も、著しくバランスを欠いているという声でした。例えば番組のなかで放映された「食べるものに困った民衆が商店を襲った」映像は酒屋で、食料を奪うために襲ったわけではなく(酒屋に食料は売っていません)、場当たり的なロックダウンとその緩和であったかを思わせる内容に対しては、まったく日本とは異なる社会的、経済的、政治的状況を背景であること、政府による情報公開がしっかりと行われている点なども挙げられました。また、大変困難な状況ではあるものの、市民グループや相互扶助の団体が柔軟な支援活動を迅速且つ活発に展開しているとのことでした。
もちろん、日本と同様、前代未聞の事態のなかで問題もたくさんあるでしょう。一方、私たちが学べること、日本よりずっとうまくいっていることもあります。この特集ではそうした側面に一切触れていませんでした。なぜNHKはこのような報道をしてしまったのでしょうか。
市民活動として発信する情報は、NHKのような影響力を持っていません。それでも、小さな資金で、より多くの人々に届けられる可能性は以前より大きくなっているはず・・・。海外に限らず、相手を知り、尊重し、対等に学び、痛みをわかちあえるような情報や声をもっと共有できるといいなと思いました。
(廣内かおり)