日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
企業や国家の利益よりも人のいのちや健康を優先する世の中に変えたいと活動しています。

ミナマタから見るとフクシマがはっきり見える── 国と加害企業の責任を明確にしよう

「東電と国の責任を追及することが脱原発と日本の価値観・社会を変えることにつながる」と熱い思いを語る「生業を返せ、地域を返せ! 」福島原発事故被害弁護団の馬奈木厳太郎弁護士。

福島原発事故の原因究明、再発防止、汚染対策、被害の実像、被害者の救済・賠償などなど、山積する問題の大きさに圧倒されそうな私たち。けれども、日本には公害と闘った長い経験があり、その中で獲得された豊かな「知」があります。その知から福島原発問題を見直すと、たちどころにその構造が明瞭になります。日消連も参加している「風の会Part21」が東京で開いた集会「国と企業の加害責任を明確にしよう」は、福島原発問題の構造を捉え、将来何が起きるかを予見し、いま何をすべきかを考えるための貴重な視座を与えてくれました。

■ミナマタからフクシマを見る視点

水俣病訴訟をはじめ、九州予防接種禍訴訟、筑豊じん肺訴訟などと取り組んできた馬奈木昭雄弁護士は、公害・薬害との40年間の闘いの教訓から、福島原発問題にどう取り組むべきかについて語りました。

「これまでに日本の地名が悲劇の象徴として国際語になった例としてはヒロシマ・ナガサキ、ミナマタ、イサハヤがあった。どの悲劇にも共通しているのは、①加害者と国が共謀し、徹底して原因を隠し、その究明を妨害すること。②そのために対策が遅れ、被害が拡大してしまう。③加害者と国はその被害を徹底して隠し込む。④被害者の救済は切り捨てに切り捨てを行って放置する。⑤再発防止対策など考えもしない、ということ。」すでに世界語になってしまった第5の地「フクシマ」でも同じことが繰り返されています。

安全性を唯一担保するのは国の安全基準ですが、これもつねに後追いでした。水俣病でチッソが流した排水は、当時の国の基準では何と飲み水にしてもいい水だったのでした。水俣病発生から10年以上後に、水銀を出さない代替技術が一般化して初めて、国は原因が有機水銀だったことを認め、排出基準をつくりました。

公害問題では、安全基準の単位は当初「ミリ」でしたが、反公害運動の結果、「マイクロ(百万分の1)」、「ナノ(十億分の1)」、「ピコ(1兆分の1)」と、どんどん小さくなってきました。「化学物質よりもはるかに危険な放射能の基準としていま使われているのはミリシーベルトですが、これは急性障害を起こす量を測る単位。同じミリの単位で安全性の議論をするのはまやかし」と馬奈木弁護士は達観します。

事故が起きたら自分で損害賠償できないような操業をしておいて、被害が出ると「賠償したら企業がつぶれます」と言う。つぶれたら大変だから国が賠償の肩代わりをする(結局は国民の負担)という、チッソ救済策と同じことが東電でも行われようとしています。また、加害企業本体から損害賠償を行う部分を切り離すというやり方が、つい最近チッソで採られましたが、同じことを東電でも行うことを民主党は認めました。「被害を賠償する能力のない企業は、そもそも操業してはならない」と馬奈木弁護士は、即時脱原発の重要性を強調しました。

■「福島後」を準備する不当判決

阿部哲二弁護士(全国公害弁護団連絡会議、イレッサ薬害裁判弁護団長)は、福島原発事故での今後の国の責任追及に備えるための判決が、アスベスト裁判や薬害裁判ですでに行われていると警告しました。

水俣病やスモン病の裁判闘争で、「国は与えられた規制権限を適宜適切に行使しなければならない」として国の責任を認める判決が出されてきました。ところが、「泉南アスベスト訴訟」の大阪高裁判決(11年8月)と「薬害イレッサ訴訟」の東京高裁判決(11年11月)は、国の責任を全面否定。「産業発展のためには健康障害はやむを得ない。基本的に事業者の責任」「患者が医療を選択下のだから、その副作用被害は自己責任」などとして、確信犯的に判決の流れを変えました。

阿部弁護士は「これは、新自由主義的な流れに裁判官が影響されていることの表れであると同時に、福島原発事故で『自主避難は自己責任』などとすることで、今後問われる国の賠償責任を免除するための準備と考えられる。公害・薬害訴訟と福島原発問題はつながっている」と警鐘を鳴らしました。

(「消費者リポート」1513号より/共同代表・真下俊樹)


当日の講演・質疑のもようはUstreamの録画でご覧になれます。
また当日の配布資料(pdf)は下記リンクよりダウンロードできます

 ● 第1部〜第2部 録画配付資料1

● 特別報告 録画配付資料2


司法に国民の風を吹かせよう Part 21
── 国と加害企業の責任を明確にしよう ──

主 催 :「司法に国民の風を吹かせよう」実行委員会

プログラム

開会のあいさつ:清水鳩子

第1部

●「歴史にそむく反動判決にどう立ち向かうか
阿部哲二 (全国公害弁護団連絡会議)

●「首都圏アスベストの闘いと 今後の展望
阪田勝彦 (首都圏アスベスト弁護団)

第2部

講演:「原発問題と国・企業の責任
講師 馬奈木昭雄 (全国公害弁護団連絡会議)

<質疑応答>

特別報告:東電原発問題に関連して
●「原発事故と東電・国の責任」:中瀬奈都子・馬奈木厳太郎 (福島原発被害者弁護団)
●「原発事故と電力料金の値上げ」:飛田恵理子 (東京都地域婦人団体連盟)
●「放射能汚染と食の安全」:真下俊樹 (日本消費者連盟)
●「原発立地とゆがめられた『環境行政』」:小池信太郎 (公害地球環境問題懇談会)

<意見交換・経験交流>

まとめ:篠原義仁
閉会:寺田かつ子