総括原価方式の撤廃で電気料金値下げを!節電も徹底して原発ゼロへ!
12年7月5日、東京電力の家庭用電気料金の値上げ申請について、査定方針を検討していた経済産業省の電気料金審査専門委員会(以下委員会)は、全10回の委員会審議を終え、報告書を枝野幸男経産相に提出しました。値上げ幅は東電の申請(平均10.28%)から1%程度下げられ、9%台前半となる見通しだと報道されています。これは、原価査定が500億円程度削減できるとの見込みによるものです。消費者庁も近く意見をまとめ、枝野経産相は松原消費者担当相とも協議した上で東電に申請の修正を指示し値上げを認可する予定とされています。
日消連では、公聴会の開催の延期や、委員会に消費者代表を入れることを要請してきましたが、委員会は2名の消費者団体の代表者と消費者庁課長を意見の表明のみできるオブザーバー委員として出席を認めてきました。
日消連は、6月7日に参考人として公聴会で意見を述べ、6月28日には委員会で意見陳述を行いました(こちらの記事を参照)。7月4日の他団体とともに開催した、「東京電力電気料金値上げに抗議する緊急集会」には急な呼びかけにもかかわらず、多くの国民が参加しました。今回の審査についてのパブコメは1ヶ月余の間に2,336件の長文に及ぶ値上げ反対の強い意見が寄せられました。
変わらない東電の体質、査定結論を明言できない審査専門委員
第10回の委員会では、冒頭、新任の廣瀬代表執行役社長が「お詫び」のあいさつをしました。「かなりの損害があるが、コストダウンをしており、金融支援をうけてもなお、値上げをお願いするしかない。人件費についてはJALの3割カットが例に出されているが、JALも翌年以降は人件費削減を元に戻していること、昨年の事故後退職者が3.5倍と増加し社員のインセンティブが低下することが社内改善の最大の壁である」と訴えました。燃料費等の競争入札についても、「安定供給を大事にして競争に変えていく、3年間で3割に拡大し、4何年目以降もしっかりやり、5年間で6割の競争入札を目指したい」と言うにとどまりました。公聴会、委員会、抗議集会での西澤社長以下、説明者が繰り返し「やむを得ない値上げをお願いする。判断は大臣(国)がする」という答弁と何ら変わらないものでした。
東電の原価算定案に好意的な八田委員は全員一致、一本化の結論を出すことを求めましたが、抵抗する委員もいて、6名の委員では両論併記ということもできず、異論についての修正は委員長に一任されました。
安念委員長は委員会の最後に「どう決めてもだれかに迷惑をかける。正直、これほど大変とは思わなかった。」と発言しましたが、報道では「廃炉に係る減価償却費の計上や人件費について中立的、客観的な観点から審議を行った。他の電力会社にも適応できる一般的なルールとして取りまとめた」と枝野経産相に報告したとされています。報告書は原価に含まれる費用のうち、液化天然ガス(LNG)の調達価格の一部見直しのほか、社員の健康保険料の会社負担率、資金調達コストなどの引き下げを求めたとされています。
総括原価方式というまやかし
電気事業法に基く総括原価方式という算定の仕方自体に問題があることは各方面から批判されてきたところです。この方式は、発電・送電・電力販売にかかわるすべての費用を「総括原価」としてコストに反映させ、さらにその上に一定の報酬率を上乗せした金額が、電気の販売収入に等しくなるように電気料金を決めるやりかたです。電力会社を経営するすべての費用をコストに転嫁することができる上に、一定の利益率まで保証されているという、決して赤字にならないシステムです。普通の民間企業ならば、利益を生み出すために必死でコストを削減する努力をするはずですが、電力会社はどんなにコストがかかろうと、法律によってあらかじめ利益まで保証されているのです。原価算入はいわばブラックボックスなのです。目に見えやすい人件費などがコスト削減のやり玉に挙げられやすいですが、むしろ、事業報酬や燃料費の非競争入札の改善で大幅なコストダウンが可能であり、値上げが不要となることに目を向けるべきです。
永田委員は、資金調達の原資を一定量確保し電力の安定供給に資するよくできた仕組みであるが、もともと高めに下駄を履かせて、料金をかさ上げする過程のロジックに構造的欠陥があった。しかし、事業報酬については、社債による他人資本の調達ができない以上自己資金調達のためには必要であると発言しています。
しかし、今回の値上げは現行法が未曽有の事故を起こした東電に対してすでに莫大な国家予算をつぎ込んだ上でなお国民の負担を求めるというもので、矛盾だらけの総括原価方式を前提としても、なお「真に必要なもののみを原価算定に入れる」ための査定であったはずですから自己資金調達という正常な経営時の論理を持ち込む必要はないと言えます。また、優秀な人材確保のために十分な賃金を保障する必要があるとしても、それを電気料金にストレートに価格転嫁できるという点は総括原価方式がいかに法や審査要領を遵守しているとしても国民感情からはかけ離れたものです。
その意味では、委員会の結論はなお納得できないものであり、日消連では以下の点について経済産業省と消費者庁に再度申入れを行う予定です。
原価算定に入れることをやめるべきもの
1. 人件費
委員会の結論は、人件費3,488億円はおおむね妥当であるとして、法定厚生費についてのみ一般企業並みに10%の雇用主負担を減らすというものです。
八田委員は、「公的支援を受けている会社であることに注目するマスコミの論調は間違いであり、JALはそもそも賃金が高すぎたこと、株主と債権者の責任が徹底的に追及されるべきであったものであり、東電とは異なると強調しました。また、JALやりそな銀行は破たんすれば社員は辞めればよいが、送電義務がある以上、公的整理と異なり、東電は優秀な人が去っていはいけないので人件費カットをいう消費者庁の考えはおかしい」と発言しました。これに対して、秋池委員と松村委員は人件費は誰にでも適用されるもので公的整理と切り離して考えるべきとして東電申請の人件費を妥当としました。消費者庁のチェックポイントと消費者委員会はこれに疑問を呈しており3割削減を主張しています。
2. 賠償関連費用(5,141億円)
福島第1の1から4号機については特別損失としているのに、廃炉費のほかに安定化費用(487億円)や機能していない賠償対象費用(賠償に消極的なことはリポート 号参照)に278億円を経費として原価に算入することは理解できません。
3. 減価償却費用(6,281億円)
福島第1の5、6号機と福島第2の減価償却費(414億円)は稼働予定のないものであり原価算定に入れるべきではありません。再稼働問題が議論される中でも「福島では再稼働には自治体が同意することはない」と首長が明言している中、いくら資本を投下した経費の繰り延べ償却が減価償却の考え方と言っても、秋池委員が減価償却の性質上当然と言い、安念委員長がもはや東電が事業として存続していることやすでに投下した資本を回収する意味で合理性があるとして算入を是とすると説明しても到底納得できるものではありません。
4. 購入電力費(7,943億円)
矛盾の最たるものです。東北電力と日本原子力電源から、稼働見込みのないのに毎年1,003億円を支払っているとしてマスコミでも報道されています。契約内容も情報公開されないままで委員会では原価算入が認められており、納得できません。
5. 事業報酬(2,815億円)
事業報酬とは、安定供給に必要な設備投資などをおこなうために必要な「資金調達コスト」のことであり、銀行からの借り入れや社債に対する支払利息、発行株式に対する配当に相当するものとされています。事業報酬は、電気事業の運営に必要な資産と運転資本の合計(レートベース)に、調達金利相当(事業報酬率)を乗じて算出します。発電所などへの投資をおこなうとレートベースが増加し、事業報酬が増えます。
消費者庁や消費者団体からは、計算の指数を変えることが提言されましたが、委員会では事業報酬の算定は震災以降の9電力の平均の指数を採用するとしていますが、明確な説明はなく妥当性を判断できません。
この他にも燃料費や調達費の契約の見直しの可能性や資産売却についての議論もつくされておらず、総括原価方式によるとしても、まだまだ原価算定上見直す余地は大いにあります。
国民の意識は脱原発、再稼働反対、値上げ反対
そもそも、電気料金値上げ前提となる再稼働前提の特別事業計画の認定とそれを前提にした値上げ申請は時期尚早と言わざるを得ません。脱原発、再稼働反対が市民の意思である以上、総合事業計画自体が見直される必要があります。総合事業計画は委員会の全身ともいうべき有識者会議の報告にそったものであり、計画を是として行われた値上げ申請の審査査定を査定基準を作ったメンバーが行うこと自体限界があります。メンバーが総括原価方式という法の枠内での査定を行うということに固執していれば尚更、報告結果にも限界があったといえます。総括原価方式は「安定供給」という東電の社是を守るために資金調達のために作られた「しくみ」です。ここから脱却しない限り、料金算定に膨大な資料を提示されても消費者の理解は得られません。人件費などの削減は本来企業としての経営判断で行うべきものですが、それが国民にあまねく価格転嫁される「原価」に参入されるシステム自体が問題なのです。
東電は破たん、かつ加害企業であるということを明確にして加害企業にした国及び関係構造そのものを見直すべきです。廃炉と安定供給に関する人材の確保は必須ですが、これは国策として原発を推進してきた国がおこなうべきであり、電気料金値上げという国民への直接負担に回すべきではありません。安定供給は国の義務であり、その委託をうけた東電の責任です。これを維持するために東電が優良企業である必要があるという意識から一歩も踏み出せていないように見えます。
枝野経済産業相は、委員会の報告以上の削減、値上げ幅の圧縮を示唆していますが、報告内容を読めば圧縮どころか値下げの可能性もあることが明らかです。松原消費者庁大臣も安易な値上げを徹底的に監視すると意欲を見せています。今回の値上げ問題では、消費者庁が積極的に消費者団体の意見を聞き、チェックリストを作成するなど、従前経済産業省主導で行われてきた密室での「公共料金査定」に大きな風穴をあけたものといえます。消費者団体も公聴会に出席し、委員会を傍聴して積極的に意見を述べました。短期間に団結して「再稼働反対!値上げ抗議」の集会を開催するなどの行動を起こしました。日消連では引き続き、「原発はいらないし、原発を維持するための電気料金値上げは許さない」との声をあげていきます。また、今後節電のための具体的方法も伝え、原発のないエネルギー社会の実現を求めていきます。
(共同代表・古賀 真子)