日本消費者連盟
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電気料金値上げ問題とこれからのエネルギー政策

電気料金値上げ問題とこれからのエネルギー政策

東電以降の相次ぐ値上げ申請

3.11の福島第一原発事故以後、東京電力、関西電力、九州電力に続き、12年2 月14 日には東北電力、2 月20 日には四国電力、4 月24 日には北海道電力が家庭用電気料金の値上げ申請を行いました。8 月1 日に経済産業省としての査定方針案(表)が、経済産業大臣と消費者担当大臣間で協議され、8 月2 日の物価問題に関する関係閣僚会議で了承を得て8月6日に認可されました。9月1日からの3社の値上げ幅は、東北電は8.94%、四国電は7.80%、北海道電が平均7.73%となりました。震災前と比べた標準的な家庭の電気料金の上げ幅は6電力の平均で18.5%、円安進行に伴う輸入コストの上昇から食料品など生活必需品の値上げも相次いでおり、家計には大きな打撃です。

日消連では、東京電力値上げ申請以降、一貫して電気料金の値上げに反対し、国民の意見の反映、アンペアダウンや節電を呼びかけ、総括原価方式の問題点を指摘し、改善要請をしてきました(リポート1512号、1515号、1522号)。2012年11月からは、消費者庁に意見具申する消費者委員会の家庭用電気料金専門調査会の委員として関西電力以降の審査の査定に対して意見を出してきました。

査定体制は整ったか?

電気料金の審査方針案を作成するのは、東京電力の料金認可申請時に設置された、経産省の審議会である総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会(委員会)です。委員会は12 年5 月15 日の第1 回以降、第31回の13年6 月14 日まで開催。7 月1日から「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会」に名称変更され、審議は、議事内容、膨大な配布資料を含め公開開催、インターネット中継され、消費者団体、中小企業団体、自治体、消費者庁がオブザーバー参加しました。消費者庁は、消費者や消費者団体等からの説明会開催や情報提供等の要望に応えるとともに、積極的に説明会等の開催を提案することを経産省に要請していましたが、消費者委員会の家庭用電気料金値上げ調査会が作成したチェックポイントが査定案作成前に消費者庁から提出され、それらも踏まえた審議が行われました。消費者庁は、公聴会や国民の声に加え、チェックポイント で指摘した意見が、先取り的に査定方針案に反映されることにより、審査の過程において、公平かつ効率的な料金査定方針案策定のための指針とされたものと評価し、公聴会の運営、審査プロセスの透明性等についても評価できるとしています。厳格な査定体制と消費者庁のチェック体制により、審査自体は一定の体制が確立されたと言えます。

消費者にはわかりにくい複雑な査定基準

値上げの妥当性を審査する経産省の査定方針案は、東京電力以降、電気事業法及び同法に基づく規則、一般電気事業供給約款審査要領、「電気料金制度・運用に係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って、中立的・客観的かつ専門的な見地から検討されることになっていますが、6社の査定を通して、地域独占と総括原価方式により、電力会社がいかに非効率な経営をしていたかということが明らかになりました。6社の審査により、共通して以下の方針が確認されました。(1)広告宣伝費、寄付金、団体費は原則として原価算入を認めない。 (2)既存契約及び法令に基づき算定される費用については、事実関係や算定方法の妥当性を確認する。(3)今後契約を締結するもの、契約交渉を行うものについては、資材調達や工事・委託事業等のうち、入札の実施の有無にかかわらず一定(10~10.5%)の調達価格削減をする (4)その他の、人件費、修繕費、事業報酬等は、査定方針が記載されている審査要領の費用項目に従い、「その他経費」については、審査要領に従い、比較査定(ヤードスティック査定)により削減する。

人件費については、詳細な基準がつくられました。出向者給与(今四国電力の出向者への給与が大幅に削減)、北海道電力の社員の年金資産の運用にかかる期待運用収益率が見直されるなど退職金についても踏み込んだものとなりました。

値上げの最大の理由とされている燃料費についても、液化天然ガス(LNG)のトップランナー価格(新規の調達プロジェクトなどが考慮され、自社が今後取引を開始する合意済の契約のうち最も安い価格として申請原価に織り込んだ価格)が当然の基準とされ、石油や石炭についても、発電効率向上や設備コスト抑制を考慮したうえで、各エネルギを効率的に運用するというメリットオーダーについても検証がされました。

調達費についても、競争入札比率については、高い水準を目指して引き上げるべきとされ、東京電力の事例を踏まえた水準となっているかが基準とされ、各年の競争入札比率の導入目標を設定しているか。 随意契約を含む調達費用の削減率について、各電力会社のこれまでの取組のみならず、今後の効率化努力も踏まえつつ、10%程度を目標としているかなどが考慮されました。

今後の課題~原発をどうするか

査定について、消費者参画や厳格なシステムが確立されても、電気事業法や他の法律で定められた項目については不合理なものでも料金査定の原価に入れられてしまいます。

たとえば、東北電力が東京電力及び日本原電に支払う原子力発電による購入電力料については、受電量に応じて支払う電力量料金と受電量にかかわらず支払う基本料金の組み合わせで設定されていますが、原価算定期間における東京電力福島第二発電所及び日本原電からの受電量はゼロされ、核燃料費等受電量に応じて支払う電力量料金は原価に算入されていませんが、停止中の原子力発電所に係る維持管理や安全対策工事などに必要と見込まれる費用は原価算入されています。委員会では、これらの費用については、原子力発電所は契約の相手方との共同開発であること、人件費、修繕費や減価償却費等の原子力発電所を安全に維持管理する費用や、将来の稼働に向けた投資に要する費用についても、自社電源同様、負担する義務があると考えられことから、原価に算入することを認めることが適当であるとされましたが疑問があります。

6社の査定を経て、それぞれの原価項目について、複雑な査定方針が整理されたことは評価できますが、現実の、実態経営を左右するものではありません。今後、燃料調整費で調整できないほどの燃料費が高騰したり、原発を含む電源構成が大幅に変更した場合には、更なる値上げも想定されるので、安易な値上げを許さないための事後検証が必要です。燃料調達について、世界的なエネルギー価格の動向を反映させ、継続的なインセンティブを与える観点からの検証(トップランナー価格での原価織り込み、燃料費調整制度の在り方等を含む)が必要です。特に、料金算定の前提条件が、認可時からどの程度乖離したかどうかの観点からの検証を行い、費用と、料金メニュー毎の収入及び販売電力量について、実績値や見込み額の原価算定期間内の進捗状況について定期的に一覧性のあるわかりやすい形での消費者への情報提供がされるべきです。

原発を再稼働しないと更なる値上げが必要?

原発を稼働しないことにより、電気料金がさらに上がるという説明は正しいのでしょうか。自民、公明両党が大勝した参院選投票日翌日の7月22日に電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は、「可能な限り原発を再稼働させ、液化天然ガス(LNG)を安価に調達する。製造業再生の絶対条件だ」として原発の早期再稼働を求めるコメントを発表しました。12年度の電力10社の燃料費合計は10年度から3兆円強増加、今年上期の貿易収支は過去最大となる4兆8438億円の赤字。東京電力福島第1原子力発電所事故以降の原発停止で、火力発電用燃料の輸入は膨らみ続けています。

中部、北陸、中国、沖縄の4電力は現時点で申請を予定していないとされ、震災後の値上げの動きは一巡した形ですが、6電力の電気料金の算定は原発の再稼働を前提にしているので、計画通りの再稼働がされないと、燃料費が膨らみ続ければ再値上げをすると言われています。東京電力は昨年9月、家庭向け電気料金を8.46%、九州電力も5月に6.23%値上げしており料金値上げに加え、コスト削減や合理化に取り組んだことから経常赤字の幅が縮小されたとされています。

8月13日、東京電力が、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の遅れが長引けば、来年1月にも8.5%程度の電気料金値上げが必要になるとの試算を金融機関に示してるとの報道がされました。東電は、14年3月期の経常黒字確保が、金融機関からの融資継続の条件になっているために、再値上げを回避しつつ経常黒字の確保を目指しています。今年4月ころから同原発を順次再稼働させ、経常黒字化する計画でしたが、再稼働は大幅に遅れており、14年1月に同原発を再稼働できた場合と、当面再稼働できない場合に分け、収支予測案を試算しています。

 それによると、14年1月に同原発を再稼働できた場合には、電気料金の再値上げを行わなくても、14年3月期に170億~340億円程度の経常黒字を確保できるとしています。一方、再稼働が当面できない場合については、15年1月に8.5%程度の値上げを実施することで、600億円程度の経常黒字を確保できると予測しています。15年3月期については、14年1~4月に8.5~10%の値上げをした場合、2100億~2300億円の経常黒字になると試算しているのです。しかし、これらは世代を超える計り知れない損害を国民に与え、国から多額の支援を受けた企業が、再稼働を前提に原発を推進し続けるために、資金調達にために黒字を出すために、更なる国民への負担を求めるというものであり、到底納得できるものではありません。

電事連だけでなく、委員会の安念潤司委員長も安価で安定したエネルギー供給に向け、原子力発電所の早期稼働が必要だと発言をしばしば繰り返しています。電事連は原発に対する地元自治体の理解を深めるため国の説明責任を明確にすることや、国民に原発停止に伴う電気料金の値上げが企業や家庭に及ぼす影響を具体的に示すことも求めていますが、加害者が被害者に賠償しないどころか平気で新たな負担を求めるものであり本末転倒です。再稼働前に、福島では汚染水漏れが深刻化しており、事故処理もままならない状況が明らかになっています。原発をやめることを明言し、エネルギー政策を根本から見直すことでしか国民の信頼を回復できないということを肝に命じるべきです。このことは、電力システムを消費者が望む形にどう変えていくかということにつながります。

すでに多額の負担を強いられている消費者

原発を動かさないことにより、燃料費が増加して料金を上げざるを得ないという論理は実際そのとおりですが、実は原発の稼働、非稼働に関わらず、電気料金にはすでに原発施設を維持するために莫大な費用が原価算入され、消費者は負担させられています。しかし、これらは他の法律や審査要領で認められているため、査定案策定においてはほとんどタブーとして問題にされないのです。

査定期間内の設備投資については、原子力発電所の更なる安全性向上対策(津波・浸水対策等)などにより、東北電力では3 ヶ年平均2,813 億円、四国電力においては3 ヶ年平均731 億円、北海道電力においては3 ヶ年平均1,349 億円が見込まれています。原発が稼働しなくても原価に算入されているものです。また、四国電力及び北海道電力の供給予備率は、需給運用上求められる供給予備率を上回っていますが、これは原子力発電所の再稼働の見通しが申請時点の仮定に基づくものであることから、安定供給の責任を担う電力会社として高めの供給予備率の設定により電気料金の査定額を押し上げることになっています。

査定期間に新たに取得する核燃料資産(加工中等核燃料資産)については、原子力発電所の稼働状況を踏まえ、新規契約の締結見送り、引取量の減量・繰り延べにより、可能な限り至近の調達量を削減して織り込んでいることを確認したとされていますが、稼働前提の数字として原価査定に算入済みです。北海道電力の原価算定期間中におけるウラン在庫などは過剰として削減されていますが、原発を維持するための費用をもっと明確にすべきでしょう。

その他にも、日本原燃株式会社に対する再処理の前払金は、料金原価に算入される再処理費用を前払いするものであり、費用性資産としての性格を有するとして、レートベースに算入することは妥当であるとされています。

原価算定期間中に再稼働を見込まない原子力発電所の取り扱いについては、東北電力は、東通原子力発電所1 号機(15 年7 月稼働想定)については原価算定期間中に再稼働を見込み、四国電力では、伊方原子力発電所3 号機(13 年7 月稼働想定)について再稼働を見込んでいます。

審査要領上、「長期停止発電設備については、原価算定期間内に緊急時の即時対応性を有すること及び改良工事中などの将来の稼働の確実性等を踏まえてレートベースに算入する。」となっていますが、東北電力、四国電力の原子力発電所については再稼働に向けた準備を進めているので、原価算定期間以降には稼働するものと想定していることから、レートベース及び減価償却費を算入することは妥当であるとされています。

このほかにも、①使用済燃料再処理等費②特定放射性廃棄物処分費③原子力発電施設解体費などの原子力バックエンド費用がありますが、これらも、原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律に基づき、原子力発電所から発生する使用済燃料の再処理等の費用に充てるため積み立てが義務づけられている費用のほか、使用済燃料の輸送費等の当期費用を計上されています。

また、東北電力及び四国電力おいては、その他(輸送費)のうち六ヶ所再処理工場への輸送費も料金原価に含まれています。

特定放射性廃棄物処分費は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律に基づき、原子力発電所から発生する使用済燃料の再処理等を行った後に生ずる特定放射性廃棄物の最終処分に必要な費用を拠出することが義務づけられている費用ですが、原子力発電施設解体費等も原価に含まれています。

廃棄物処理費や原子力損害賠償支援機構一般負担金、低レベル放射性廃棄物処理費(埋設費)が原価に含まれています。

その上、国民にとっては、国の審査を受ける抜本的な料金値上げとは別に「原燃料費調整制度(燃調)」という石油や液化天然ガス(LNG)の輸入価格を料金に自動反映する制度で電気料金は想定以上の値上げ感があります。東北電力の消費者団体との意見交換会で、4月から8月の4か月間で約4倍になっているとの指摘がありました。しかし、この転嫁幅に基準価格の1.5倍という上限があるために、中部電力などは転嫁の限界から値上げ申請をちらつかせています。

再稼働のない電力システム改革への市民参加の促進を

そもそも、電気料金査定の最大の問題である総括原価方式についての見直し議論の前提として、電力システム改革と、エネルギー政策の方向性が明確にされる必要があります。

電力システム改革について、消費者庁は消費者にとってどのようなメリットがあるのかについて分かりやすい情報提供を行うべきであるとしていますが、今後の発送電分離などの電力の自由化、再生可能エネルギーの利用拡大及びスマートメーターの普及等が消費者に与える影響について明確に説明すべきですが、これらは現在進行形であり、今後の見通しについての説明は容易ではありません。

電気事業法改正法案は参議院審議未了のため、廃案となりました。2012年より経産省に設置された電力システム改革委員会が議論を重ね、2013年2月8日に発表した報告書と工程表にもとづくものです。2020年まで三段階にわたって現行の電力システムを改革し、電力自由化と再生可能エネルギーを実現する第一歩を踏みだすための、画期的法案でした(リポート1532号)。

今秋、電気事業法の改正が秋の国会で再提出されますが、6月に経産省総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会が発足し、8月2日から電力システム改革小委員会制度設計ワーキンググループによるエネルギー政策と電力システム改革の具体的議論が始まりました。基本政策分科会は、昨年までの総合資源エネルギー調査会基本問題委員会に入っていた、原子力発電や核廃棄物処理の技術と現状、電力システム、再生可能エネルギーの専門家である委員が交代してしまいました。専門委員として電力会社の役員がそろって委員となっており、世論が望む原発ゼロシナリオや原発に頼らない社会の方向とのかい離が危惧されます。

相次ぐ電気料金の値上げと更なる負担のへの警戒感。自民党政権の再稼働への布石の中で、汚染水漏れの実態が報告され、私たちは何をどう選択すればよいのか迷いがちです。  しかし、3.11の事故から、世論は原子力発電に依存しない電力とエネルギーを求めており、2012年8月の「エネルギー・環境に関する国民的議論」に寄せられたパブリックコメントでは87パーセントが原発ゼロシナリオを支持しました。2013年6月『朝日新聞』世論調査でも、58パーセントが「経済成長のための原発利用」「原子力発電の運転再開」には反対と答えています。3.11以降、国民は一貫して、原発に依存しない社会への移行を望んでいます。

日消連では今後も引き続き脱原発を強く求め、電気料金の再値上げと電力システム改革への監視を続けていきます。                                                                                                                                                           (共同代表 古賀 真子)

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