農林水産省が、「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめについての意見・情報を募集しています(意見募集締め切りは2021年4月12日)。日本消費者連盟は4月12日に以下の意見を出しました。
「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめについての意見
「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめ(以下「戦略」)について、私たちは消費者の立場から、以下の意見を申し述べます。
記
1、消費者の位置づけについて
この意見書は「消費者の立場から」のものであると冒頭で書きました。私たちは「農業と食料」に関して、消費者は責任ある主体であると考えています。生産者だけでもなく消費者だけでもない、両者がお互いの立場を理解し合い、協力することで健全な農と食のあり方が作られると考えます。これまでの歴史を振り返っても、日本の有機農業はまさに生産者と消費者が協力して作ってきたという事実に思い至ります。
例えば、産直、提携といった有機農業運動が創造し発展させてきた流通システムもまた、そのたまものです。しかし「戦略」は、「消費者の行動変容の促進」といった言葉にみられるように、消費者を「行動を変容させる」対象としか見ておりません。「戦略」はまず消費者に対する見方を改め、有機農業発展の主役として位置づけるべきです。
2、私たちは以上の認識のもとに、以下のことを提起します。
(1)「戦略」を形成している中心的な考え方は、戦略が述べる「生産力の向上と持続性の両立」という言葉に象徴されていると考えます。ここで言う「生産力の向上」とはAI農業(スマート農業)、遺伝子操作技術を駆使して農業を成長戦略の一環に位置づけ、輸出拡大に資することなどが述べられています。こうした生産力によって農業者の高齢化や減少、集落の消滅、気候変動による農業へのマイナスの影響などに対応するという組み立てです。
ここで言われている「生産力」とは技術革新による労働生産性の向上にほかなりません。農業の本来の生産力とは、自然の諸力を活かし、農業のなかに取り込むことによって得られるものであり、「戦略」が規定している「生産力」とは別物です。「農業生産力」についての考え方の再考を求めます。
(2)「戦略」では、化学農薬や化学肥料の低減や有機農業の推進がうたわれています。このこと自体については、ある面で歓迎できるところもあります。しかし、その手段としてAIやRNA農薬などが挙げられていることを私たちは危惧します。有機農業は化学農薬や化学肥料を使わないというだけでなく、土壌微生物や昆虫をはじめとした生物と共生して作物が作られるものと私たちは考えています。
「戦略」で述べられている有機農業は、私たち消費者が生産者と力を合わせて取り組み、作ってきた有機農業とは似て非なるものです。私たちが考え、実践する有機農業とは、地域の自然・風土、文化、そのもとでの人々の暮らし方に根差し、そこに息づくあらゆる生命の活動をより豊かにする農業です。「戦略」が述べる有機農業にはそうした視点は全く見られず、むしろ自然を排除する方向さえみてとれます。私たちは、こうした有機農業に対する考え方を受け入れることはできません。
(3)遺伝子操作技術の応用について
遺伝子操作技術は、生態系への影響、食品安全性について不安があり、化学農薬の低減が目的であっても私たちは許容できません。多くの消費者も有機農畜産物に安全安心を求めています。遺伝子操作技術の農畜産業への応用を「戦略」から除いてください。
(4)「戦略」は「革新的な技術生産体系」をつくることで、「環境負荷を低減」し「労働安全性・労働生産性」を向上させると述べています。膨大な「戦略」中間取りまとめの中で「安全」という言葉があるのはここだけです。私たち消費者にとって最も気になるのは「食の安全」ですが、「戦略」はこのことを無視しています。「食の安全」についてはいかがお考えでしょうか。
(5)食料自給について
食料問題について書かれているにも関わらず、「戦略」には食料自給率について触れられていません。私たち消費者も、国産農畜産物を求め、国産農畜産物の安全性が高められることを望んでいます。食料自給率が先進国の中でも最低レベルであることは問題であり、生産の面でも消費の面でも食料自給を抜いて考えることはできません。食料自給の重要さについて記述すべきと考えます。
(6)目標設定の根拠について
「戦略」は、2050年を目標に化学農薬使用量を50%、化学肥料使用量を30%削減し、有機農業面積を耕地面積の25%、100万ヘクタールに増やすとしています。あまりにも期間が長すぎます。少なくとも中間地点として、欧州と同じ2030年の目標を設定すべきと考えます。また、各数値の根拠をお示しください。
3、パブリックコメントの募集期間について
農業は国民の食を支える重要な産業であり、そのあり方に関する検討は、広く国民の意見を聞くべきです。にも関わらず、本件の意見募集期間は通常の募集期間の半分の2週間で、アリバイ的に意見を聞いているようなものです。改めて十分な期間を以て意見募集を実施することを求めます。
以上