ゼン・ハニーカットさんの講演より
選びとるのは私たち
日消連事務局長 纐纈美千世
「私は学者でも医者でもありません。でも母親のプロです」。ゼン・ハニーカットさんはこう言って講演会を始めました。今でこそ遺伝子組み換え(GM)食品反対運動の先頭に立って飛び回るゼンさんですが、少し前までは、子どもたちのアレルギーに悩む、どこにでもいる母親でした。
きっかけは、2012年にカリフォルニア州で行われたGM食品表示の義務化を求める住民投票運動です。義務化反対が賛成を僅差で上回り、ゼンさんたちは負けてしまいますが、このとき力を完全に出し切らなかったことに気付いた彼女は一念発起します。
息子の食物アレルギーをどうにかしようと、食べものやアメリカの子どもたちの健康状態を調べ始めました。実は、3人いる息子の1人がアナフィラキシーショックで生死をさまよったことがありました。「子どもを思う母親の調査能力はFBI(アメリカ連邦捜査局)にも勝るという言葉がありますが、私もそんな母親の1人になったのです」とゼンさん。科学者や医師、農家から話を聞いたりする中でGM食品の問題に行き当たりました。フランス・カーン大学のセラリーニ教授による動物実験(囲み参照)や、カナダ・シャーブルック大学の調査で妊婦の体内にGM作物関連の除草剤や殺虫毒素が蓄積しており、胎児に移行している可能性があるということを知ったのです。食卓からGM食品を排除するとともに有機食品に切り替えたところ、息子たちの病状が改善。多くの人に知らせようと、子どものアレルギーなどで悩み苦しむママたちと13年に「マムズ・アクロス・アメリカ(MAA)」を立ち上げました。
体験談と検査で
政府動かす
設立と同時にゼンさんたちがやったのは、GM食品表示を求めるアピール行動です。時間もお金もないため、多くの人が集まるアメリカ独立記念日のイベントを利用。子どもを連れてワシントンDCまで行けないママたちに、地元で行われるパレードへの参加を呼び掛けたところ、アメリカ中で170を超えるMAAグループが参加しました。それを知ったカナダのママたちが早速「マムズ・アクロス・カナダ」をつくり、続いてアフリカとアイルランドのママたちも同様のネットワークを立ち上げました。
MAAの認知度が上がるとともに、GM食品をやめたことで子どもの体調が良くなったという体験談が寄せられるようになりました。一方で、GM推進派から「科学的証拠はない」と攻撃され始めます。それなら証拠を集めようと、GM作物に使われる農薬ラウンドアップの主成分グリホサートの検査を実施。母乳や尿を検査したところ、高い値のグリホサートが検出され、GM食品と一緒に農薬も体内に取り込んでいることが明らかになりました。ゼンさんたちは農薬の認可を行うEPA(アメリカ環境保護局)に対して電話キャンペーンを展開。EPAに母乳のグリホサート検査を始めさせました。
子どもたちの健康を
守るために
ゼンさんたちの原動力は、子どもたちの健康がGM食品で脅かされている現状を何とかしたいという思いです。日本にもGM原料をできるだけ使わない食品や有機農産物を扱う生協がありますが、これも子どや家族のために安心・安全な食べものを手に入れたいというママたちの思いが背景にあります。
日本に限らず食べものを買うのは圧倒的に女性たちです。私たちが買わなければ企業は売ることができない。選ぶ権利はママたちの手にあります。ママたちがGMでない食品を買うことで、子どもの健康や未来だけでなく、国の未来、世界を変えることができると、ゼンさんは確信を持って活動しています。