日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
企業や国家の利益よりも、人のいのちや健康を優先する世の中にしたいと活動しています。

東京電力、生協の賠償請求を拒否:賠償提訴へ!——日本の農と食を守る生協の闘い

福島第1原子力発電所事故によって、なのはな生活協同組合に与えた損害すべてについて、早急に賠償に応じるよう求めます」とする署名約6,500筆を東電に提出。東電は最初受け取りを拒否していましたが、なのはな生協の強い要求に押され、最終的に受け取りました(2012年7月27日東電千葉支店玄関にて。下にUstrem映像)

東京電力の福島第一原発事故は、私たちか守り育ててきた食の安全安心を根底から破壊しました。放射能は日本の豊かな自然を汚染したため、自然の恵みを活かし、顔の見える関係にもとづいた食を追求してきた生産者や流通業者、消費者ほど大きな被害を受けたのでした。

なかでも安全安心な食品を守り育ててきた生協は、安全を求める消費者と、汚染の中で日本の農を守り抜こうと格闘する生産者との間で、苦悩し続けてきました。被害は福島県にとどまらず、東日本を中心とした広範な地域で穫れた食品の買い控えが拡がっています。「北海道や西日本産のものがもっと欲しかった。原発事故さえなければ…」「注文する商品がない。無農薬だが、ほとんど関東産なので、とても子どもに食べさせられない」といった理由で脱退する組合員も後を絶ちません。放射能を測定し、測定値を表示することで安全を示す努力が行なわれていますが、測定器の設置や検査サンプルの取り寄せ、測定人員の確保などに多額の費用が掛かっています。

こうした減収や出費は、言うまでもなく原発事故がなければあり得なかったものですから、その原因を引き起こした東京電力が当然賠償しなければならないものです。

福島原発事故の損害賠償の類型については、原子力損害賠償紛争審査会が年8月に発表した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下、「中間指針」)があります。東電はこれにもとづいて賠償基準を定めているとしていますが、実際には類型通りに行かないものが多く、賠償は遅々として進んでいないのが実態です。

賠償を勝ち取った「なのはな生協」

東電と損害賠償交渉を始めている生協もいくつかありますが、千葉県の「なのはな生協」は、年月に「検査費用等」として約514万円、年3月に「逸失利益の一部」として約538万円の損害賠償を東電から勝ち取りました。なのはな生協によると、東電との交渉にさいして、次の点に注意したといいます。

▼損害賠償請求の権利を明確にする:「組合員と生協、それに関わる全ての人々は原発事故の被害者である。食の安全と安心にこだわったなのはな生協は、組合員に安全な食品を届ける義務がある。私たちは原発事故を起こした東京電力に対して責任追及する権利を持っている。原発事故は地域に関係なく被害を及ぼしており、全ての被害者が東京電力に請求する権利を持っている」という請求側の立場をまず明確にする。

▼自分の地域の補償相談センターで直に交渉する東電に賠償について問い合わせると福島原子力補償相談室(コールセンター)を紹介されるが、そこはすでに数千件の請求が順番待ちの状態で、長い間放置されるのが関の山。本店ではなく、地元の補償相談センターを通して請求する。「請求書を郵送する」と言われるが、東電の請求書は読んでもわからないので、必ず「持参して説明してほしい」と答える。

▼放射能測定は必要に迫られてやっていることを示す:測定は自主的にやっているのではなく、組合員からの要求でやっていること。測定しなければ組合活動を中止せざるを得ないことを明確に示す(この要件は「中間指針」にも書かれています)。

▼生協で扱っている商品は代替がきかないことを示す:安全安心な食べものの提供を目指している生協は、作物の栽培方法や加工の仕方についての要件で生産者と合意し、長い年月を掛けて顔の見える信頼関係を築いてきた。だから、作物が汚染されたからといって、ふつうのスーパーのように、すぐに別の生産者に切り替えて欠品を補完することは不可能。東電の担当者は、こうした事情をまったく知らないので、この点を詳しく説明し、理解させる。

▼請求書は独自の書式で:東電は損害賠償請求の類型別に種類の請求用紙を用意している。「用意された類型に当てはまらないから請求できないのでは」と思う人も多いが、東電の用紙を使う必要はまったくない。自分の業種や事情に合った独自の書式で書いた方がはるかに書きやすい。

▼「中間指針」にとらわれない:「中間指針」では、賠償の対象地域が記載されていて、これに限定されるような印象を与えるが、被害は全国に拡がっていて、自分たちが被害を受けていることをはっきり述べる(「中間指針」自体、これは類型であって、これに限られるものではないことを明記しています)。

こうした正当な権利にもとづいた、周到な交渉に押し切られる形で、東電は損害賠償を認め、合計約1052万円をなのはな生協に支払いました。なのはな生協は、その後も、東電がまだ賠償を認めていない逸失利益や、その後発生した測定費用と逸失利益の賠償を求める2回目、3回目の請求を行ないました。

東電から突然の賠償拒否通告

ところが、11年6月、東電福島原子力補償相談室は、突然「賠償しない」との通告をなのはな生協に送りつけてきました。東電側は、その理由を次のように述べています

(小見出しは引用者)。

◆買い控えは一部の消費者の過剰反応:「1国において食品等の出荷基準が設けられ、これに基づく必要な検査体制がすでに取られていることから、現在小売店において販売されている食品等については安全性が担保されているものであると考えられ、貴組合の組合員が、貴組合において取り扱う食品等について、本件事故に伴う放射性物質の影響を懸念して買い控え等を行なうことは、必ずしも広く一般的に見られる行動とは考えられない」。

◆仕入れ先を変えれば済む話:「2貴組合において取り扱う食品等について、本件事故に伴う放射性物質の影響を懸念した買い控え等の風評被害が生じる可能性がある場合、貴組合においては仕入先を変更するなど一定の回避方策を講ずる余地があると考えられる」。

◆測定は必要もないのに勝手にやっているだけ:「3貴組合において実施した取扱食品等の放射線測定結果を見ると、ほぼすべての食品等について放射性物質は検出限界値未満となっていることから、上記1の事情も踏まえて考えると、放射線検査の実施を余儀なくされたものと評価することはできず、貴組合の組合員の不安を解消するために貴組合の経営判断として実施されているものと考えられる」。

なのはな生協、ついに賠償提訴

この通知は、東電の中枢でこうした損害賠償を受け付けないことを新たに決めたことを意味しています。

日消連では、同じように食の安全安心を追求してきた「ナチュラルコープ・ヨコハマ」の損害賠償請求に対して支援を行なってきましたが、ここでも東電側はまったく同じ文書を提出してきています。そのときの神奈川補償相談センターの説明は「過去の賠償支払いは間違いだった」「その後、賠償基準が変わった」というものでした。なのはな生協への既払い分についてはたまたま見過ごして「誠実に」対応してしまったが、類似の請求が増えて行けば、莫大な賠償金がかかると気づき、あわてて支払わないとの原則を決め、通告してきたといったところでしょう。

nanohana_press_conf

食品の放射能測定費用、買い控えによる損害などの賠償を東京電力に対して請求する裁判を起こすことを記者発表する加瀬伸二・なのはな生協理事長らと、福武公子弁護士ら弁護団。

こうなると、もうあとは裁判しかありません。なのはな生協は、7月日、ついに東電に対して損害賠償の支払いを求める訴訟を千葉地裁に起こすことを発表しました(実際の提訴は年秋ごろ)。私たちの食を守る上で極めて重要な裁判です。他方、ナチュラルコープは、東電からの支払い拒否通知に対して、8月日、次のように反論し、あらためて賠償の支払いを要求しました。

◆「買い控えは一部の消費者の過剰反応」について:各種世論調査によると、国の規制値を信用していない人は半数近くにのぼり、信用している、または気にしない人を上回っている。国の出荷規制や検査体制がすでに取られている現状の下でも、原発事故の影響で特定地域の野菜類を「購入しない」または「購入を躊躇する」人の割合は、その野菜類の産地により43〜75%にのぼっている。したがって、買い控えは、日本の消費者の間で「広く一般的に見られる行動」である。

◆「仕入れ先を変えれば済む」について:当組合の商品説明書のすべての商品に生産者の名前が記載されて「顔の見える」信頼関係を築くには長期にわたる緊密な人間関係づくりと、土などの生産条件づくりが必要。貴社(東電)の考えは、現実を無視した、根拠のない空想にすぎない。

◆「測定は必要もないのに勝手にやっているだけ」について:結果的に「検出限界未満となっていること」は、「(当)組合において実施した取扱食品等の放射線測定」によって初めてわかったこと。組合員の脱退理由にも明確に示されているように、貴社が引き起こした食品放射能汚染への懸念を理由に多数の組合員が脱退しつつある。組合員のこれ以上の減少を食い止めるためには、食品を測定し、その結果を開示することで組合員の信頼を確保する以外に方法がないことは論をまたない。

これに対して、東電は年8月日、先の回答(上記1〜3)を繰り返す回答を提出して来ています。

放射能汚染の問題は、不幸にして今後何十年、何百年と続きます。私たちが放射能から身を守り、日本の食と農を守って行くためには、食品の放射能を測定し、それを表示すること(ベクレル表示)が不可欠です。緻密で正確な検査体制をつくるためには、その財政負担を軽減する必要があります。測定に掛かる費用は、「汚染者負担の原則」にもとづいて、汚染者である東京電力が負担するのがスジです。なのはな生協やナチュラルコープの闘いは、その先駆と言えるでしょう。日消連は、この闘いを支援し、今後の展開を詳しくお伝えして行きます。

Ustrem映像:なのはな生協に与えた損害を賠償するようもとめる署名を東電に提出
(2012年7月27日東電千葉支店玄関にて)

(共同代表・真下俊樹)