日本消費者連盟
すこやかないのちを未来へ
企業や国家の利益よりも人のいのちや健康を優先する世の中に変えたいと活動しています。

「ベクレル表示」:生産者と消費者がともに食品の放射能汚染と闘うために

福島原発事故で日本は放射能に汚染されてしまいました。放射能は消したり、減らしたりできません。場所を移動させることができるだけです。

チェルノブイリ原発事故から四半世紀を経た今日も、周辺地域では食品の放射能測定が不可欠です。北欧のトナカイの汚染は、事故直後とほとんど変わらない高レベルのまます。ドイツでは、毎年猟師さんが獲る野生のイノシシのうち数千頭が基準を超える放射能汚染のために自治体の行政当局に回収され、猟師さんに補償金が支払われています。日本に住む私たちも、今後少なくとも数十年〜数百年の間、放射能と付き合わざるを得なくなってしまったのです。この重く悲しい現実は引き受けるほかありません。

この放射能に、私たち消費者はどう向きあえばいいのでしょうか?

生産者と消費者の間に利害対立

消費者としては、放射能はできるだけ食べたくありません。これは当然かつ正当な立場です。放射線は微量でも浴びた線量に比例した害があると考えるべきであることは国際放射線防護委員会(ICRP)も認めています。こどもは、大人の何倍も放射線の害を受けやすいと言われています。こどもたちは私たちの未来です。こどもたちの命を害があるもの(あるいはその恐れがあるもの)から護ることは、私たち大人の義務です。

私たちがスーパーなど小売店で野菜やお米など食品を買うとき、まず見るのは産地表示でしょう。値段と産地しか表示がない現状では、内部被曝を避けようと思えば、福島原発からできるだけ遠い産地のものを選びたくなるのは当然でしょう。福島産と鹿児島産の長ネギが並んでいれば、鹿児島産の方に手がのびるのは自然な反応と言えます。しかし、消費者がこうした選択を続ける限り、福島やその周辺の生産者は生き残ることができません。いくら丹精込めてつくっても、売れないか、または信じられないような安値で投げ売りするしかないからです。これでは放射能汚染の重荷を、被災地の生産者に全面的に押し付けることになります。同時に、これまで私たちが進めてきた「地産地消」の努力も無に帰することになってしまいます。

この利害対立を乗り越えようとする試みとして「食べて応援」のイベントが各地で行われています。被災地(汚染地)の農漁民を支援するために、福島やその周辺でとれた農作物や魚介類を消費者が積極的に食べようというものです。でも、放射能は大丈夫なんでしょうか? たしかに、 市場に流通している食品は、原則として政府の暫定基準を下回っているはずです。しかし、政府の基準自体、純粋に健康への影響にもとづいて算出されたものではなく、健康へのリスクを、対策のコストや実行可能性などさまざまな現実的要素と天秤にかけて、いちばんバランスのよさそうなあたりを、キリのいい数字で決めたもので、政治的に決められた「ガマン量」なのです。現在、こうした政府の基準を信じている人は少ないのではないでしょうか。この場合は、放射能汚染の重荷を消費者が被ることになります。

もともと東京電力と政府の原発推進派が起こした放射能汚染を、生産者と消費者が「痛み分け」させられているこの現状。これってヘンじゃないですか? 生産者と消費者の利害対立を乗り越え、かつ放射能汚染の責任を汚染者自身に取らせる道はないのでしょうか?

測って応援

生産者と消費者の利害対立を乗り越える道、それは食品の放射能を測ってその値を表示すること、つまり「ベクレル表示」であると私たちは考えます。

たとえば、スーパーで買い物をするときに、「産地:福島県/放射線:検出せず(検出下限:5ベクレル)」と表示してあったとしたら、あなたは買う? 買わない? 「うちの子はまだ小さいから、やっぱりやだ」という人もいるでしょう。でも、「検出せずなら買ってもいい」という人も少なくないのではないでしょうか。答えは人によって違うでしょう。そこは「選ぶ権利」を行使して、消費者自身が決めればいいことです。買うにしろ、買わないにしろ、「ベクレル表示」があることで、消費者は単に生産地だけで判断するよりもずっと納得のいく買い物ができるのではないでしょうか。

これは、とくに被災地の生産者にとって大きな支えになるはずです。なぜなら、実際に農作物の放射能を測ってみると、福島県やその周辺でとれたものでも、ほとんどが「検出限界以下(ND)」か、検出されても極めて低いレベルであることがわかります(たとえばwebサイト「食品の放射能検査データ」を参照)。また、洗ったり、皮をむいたり、調理したりすることで、汚染はかなり減ります(下の表参照)。栽培作物や栽培方法を工夫することでも、相当な量の放射能を減らせることも分かりはじめています。

ベラルーシなどチェルノブイリ原発の周辺地域では、現在、市場で売られる食品は必ず放射能を測らなければならない規則になっています。そのための測定器が各市場や小学校などに置かれていて、生産者や消費者は自分の食品を持ち込み、低額で測ってもらって、その証書をもらうことができるそうです。日本でも同じような体制を早急に作る必要があります。「早急に」というのは、放射線の被曝量は汚染されてから間がない時期ほど強いので、被曝を避ける体制ができるのが早ければ早いほど、その効果は大きいからです。大量の放射線を浴び続けている今こそ、それを避けるための対策が必要なのです。

測定・表示のプロセスとしては:

  • 生産の段階で測定して表示
  • 表示のないものは流通段階で測定して表示
  • 小売段階でも表示がないもの、自給食品は消費者が測定所で測定
という3つの段階が考えられるでしょう(下の図参照)

ベクレル表示のイメージ

まずは「自主ベクレル表示運動」から

消費者が買い物をするとき、お店に積まれている食品のほとんどのロットに、値段・産地表示とならんでベクレル表示がある──こういう状況をつくるためには何が必要でしょうか? 最終的にはベクレル表示を食品表示制度に組み込み、義務付ける必要があります。しかし、これはどう見ても、すぐに出来るとは考えにくいでしょう。そこで、まず市民と自治体が自主的にベクレル表示を広げていくことが必要でしょう。

これには、たとえば有機農産物/食品制度を手本にすることができるのではないでしょうか。有機認証/表示制度は、民間のNPOが独自の基準を定め、それを満たしている農作物/食品に独自の認証マークを貼ることから始まりました。そうしたNPOが次第に連合し、基準とロゴマークを共通化して行きました。それが土台となって、国の制度ができ、さらにEU、コーデックス基準へと広がったのでした。これを参考にするならば、自主ベクレル表示運動にいま必要なのは:

  • 測定精度を確保するための基準
  • 測定方法の基準
  • 測定結果の表示方法の共通化

ということになるでしょう。現在、被災地を中心に、さまざまな所で、さまざまな人びとが食品の測定活動を進めています。次の一歩は、これらの活動が横につながって、上記の点で合意して共通の基盤づくりをすることです。日消連は、今後そのための活動を進めたいと考えています。

測定費用は東京電力に賠償させる!

とはいえ、測定をやってもらえる場所はまだまだ少ないですし、測定器を買ったり、測定を依頼するのにお金が掛かります(測定器1台80万円〜2,000万円。測定1件につき3,000〜27,000円)。測定技術を身につけるための研修や、測る人の人件費も必要です。こうした測定コストが高いことが、測定所がなかなか増えない最大の理由でしょう。

この費用の問題を乗り越える道はただひとつ。そもそもこんなことをしなければならない原因をつくったのは東京電力なのですから、測定にかかった費用はやはり東京電力に賠償していただくのがスジというものです。原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月にまとめた「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」にも、生産者、流通業者の測定費用が賠償の対象になることが明記されています。ただし、この「中間指針」には、消費者が自分の食べ物を測定してもらった場合については言及がありません。ここは、今後、消費者が勝ち取るべき権利と言えます。日消連は、今後、こうした測定費用の賠償請求も支援していきたいと考えています。

実は、この測定費用の賠償を東電に請求し、測定器の費用500万円あまりを賠償させた団体がすでにあります! 千葉県の「なのはな生協」がそれ。あいコープ福島ナチュラル・コープ・ヨコハマでも賠償請求をしているそうです。こうした取り組みを全国に広げていく必要があります。これは、原子力がもつリスクのコストを明らかにし、原発の本当の発電単価に反映させることにもつながります。

「ベクレル表示」運動は、生産者と消費者の利害対立を乗り越え、いっしょに力をあわせて食品の放射能汚染と闘うためにどうしても必要な運動と考えます。日消連は、この課題を今年の中心テーマのひとつとして取り組むことにしています。道は平坦ではないでしょうが、みんなで考え、話し合いながらぜひ実現させましょう!

(共同代表・真下俊樹)

One thought on “「ベクレル表示」:生産者と消費者がともに食品の放射能汚染と闘うために

  1. 池田 志世

    ぜひ日本消費者連盟から国、各食品メーカーへの働きかけを!!

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